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16.容易な逃亡

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 私は、ユーラスさんとクラリアさんとともにフェンデラット王国の隣国であるハルバルト王国にやって来ていた。
 隣国というものは、中々に手を出しにくい。ユーラスさんのその考えに乗って、ここまでやって来たのである。

「でも少し拍子抜けというか、びっくりしています。ここまでの道中、何もありませんでしたから」
「確かに、そうですね。その点に関しては、僕も驚いています。追手の一つもないなんて、思っていませんでしたからね」

 私の言葉に、ユーラスさんは同意してくれた。
 本当に、それは不思議なことである。追手がまったくないなんて、予想していないことだった。
 確かに私達は、突発的に逃亡を開始した。しかしだからといって、ここまで追手がないなんてことがあるのだろうか。

「クラリアさん、こういうことをあなたに聞くのはあまり気が進まないんですけど、こういう時に王国はどういう対処をするんですか?」
「……私は基本的に裏方でしたから、そこまで詳しいことを知っている訳ではありません。しかしながら、あのように逃げ出したからといって、追いつけないような王国ではないと思います。組織力は、やはりありますからね」
「やはり、そうですか……」

 私の質問に、クラリアさんは淡々と答えてくれた。
 道中、彼女はずっとそんな感じである。私達が話しかけると答えてくれるが、自分からは話してくれない。恐らく、まだクラリアさんの中では、事態を完全に整理できていないということなのだろう。

「まあ、王国内で何か他の問題が起こったということなのかもしれません。僕達程度に手を回す必要がないと判断されたという可能性はあります」
「そうでしょうか? 私達は、一応色々とすごいことを知っていますけど……」
「しかし、僕達にはそれをどうこうできる力はありません。言い方は悪くなりますけれど、素性もはっきりしない平民ですからね」
「ああ、言われてみればそうですね……」

 ユーラスさんの言葉に、私は納得していた。
 一応私は、妖術という強力な術に精通しているが、私にあるのはそれだけだ。
 身分も信用もない私に、一体どれだけのことができるのだろうか。考えてみれば、大したことはできないような気がする。

「まあ何はともあれ、王国に手出しされずに国を出られたという事実は大きなことです。フェンデラット王国も、流石にハルバルト王国内ではそこまで自由に動けませんからね」
「ここまでこられれば、とりあえずは一安心ということですか……」
「ええ、油断することはできませんが……」

 ユーラスさんが言っている通り、私が本当の意味で安心することは難しい。
 追手が来るかもしれない。私達は、まだしばらくの間その疑念に囚われることになるのだ。
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