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5.私がいなくなっても
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ヴェリトン伯爵家の屋敷からマートン伯爵家の屋敷に戻るために、私は馬車に乗っていた。
ゆっくりと揺れ動く馬車の中で考えるのは、これからのことだ。私は一体、どうしていけば良いのだろうか。それがなんだか、わからなくなってきていた。
マートン伯爵家は、私のことを必要としていない。友人達との間にも、距離ができてしまった。
それなら私の居場所は、どこにあるのだろうか。もしかしたらどこにもないのかもしれない。
「……少し疲れちゃったな」
私は、深くため息をついた。
なんというか、体から力が湧き上がってこない。私は自分が進むべき道というものを、見失ってしまっていた。
物心ついてから、マートン伯爵家のために役に立ちたいと、そう思ってきた。それは私の生きる指針だったのかもしれない。
それがなくなって、私の心には穴が開いていた。その穴を埋めるためには、新しい指針が必要ということなのだろう。
「でも、そんなに早く見つけられるものではないよね……」
私は、マートン伯爵家のために生きてきたつもりだ。まだ短い人生ではあるが、それでもそのつもりでここまで生きてきたのである。
それに代わるものなんて、そう簡単に見つけられるものではない。せめて何か、私に趣味や特技などがあれば、違ったのかもしれないが。
「……」
そのように考えていた私は、あることに気付いた。本当にこのまま、マートン伯爵家の屋敷に帰ることは正しいことなのだろうか。
あの家に私は、必要ないのかもしれない。それは実の所、前々から思っていたことでもある。
前妻の子である私は、輪を乱しているのではないだろうか。皆私のことを腫れ物のように扱っている。そんな私は、いない方が人間関係も円滑になるような気がする。
ティシア様はお父様と真っ当に夫婦となり、その二人の元でメセリアも伸び伸びと暮らせることだろう。
その障害となっているのは、私だ。私さえいなければ、マートン伯爵家は真っ当な家族になるのかもしれない。
「……誰も私を必要としていないなら、構わないよね?」
誰からも必要とされていない私は、いなくなった所で特に問題にはならないはずだ。最初は驚かれるかもしれないが、その内放っておいて良いと判断されることだろう。
「となると、行き先を変更しないと……」
家出という大胆なことをしようとしているというのに、私の心は少し躍っていた。
不思議なことではあるが、気分はとても清々しい。そのことに内心驚きながらも、私は行動を開始するのだった。
ゆっくりと揺れ動く馬車の中で考えるのは、これからのことだ。私は一体、どうしていけば良いのだろうか。それがなんだか、わからなくなってきていた。
マートン伯爵家は、私のことを必要としていない。友人達との間にも、距離ができてしまった。
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「……少し疲れちゃったな」
私は、深くため息をついた。
なんというか、体から力が湧き上がってこない。私は自分が進むべき道というものを、見失ってしまっていた。
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「……」
そのように考えていた私は、あることに気付いた。本当にこのまま、マートン伯爵家の屋敷に帰ることは正しいことなのだろうか。
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「となると、行き先を変更しないと……」
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