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私、エルフィリナ・アルガンテという人間は、特筆するべき点もない貴族である自覚している。
ただ、私の身に起こった問題は、非常に数奇なものだったといえる。その事件は、後世に残すべきものだ。そう思ったため、私はこの日記を書くことにしたのである。
といっても、この事件は歴史を揺るがす大事件という訳ではない。端的に言えば、これは一人の貴族の乱心から始まった珍事だ。この日記を見つけた時、過度な期待をしないでもらいたいというのが、私の正直な気持ちである。
この話をするにあたって、まず知っておいてもらいたいのは、私がどういう人物かということだ。性格面という訳ではなく、どういう立ち位置にいたかが、今回の話では重要なのである。
エルフィリナ・アルガンテは、スレンド王国のアルガンテ侯爵家の長女である。兄がいるため、私は嫁に出されることになった。その相手こそが、今回の事件を引き起こした張本人なのだ。
ルグファド・レギグズは、レギグズ侯爵家の長男である。彼という人物は、はっきり言ってどうしようもない男だ。というのも、彼は少々自分本位な所があったのである。世界の中心に、自分がいる。そういう風に考える人物だったのだ。
だが、別にその考え自体は否定されるようなものではない。個人の考え方なのだから、そう思うことが悪いことだとは私も思っていない。
しかし、彼の問題は、それを他人にも強要することだった。わがままで自分勝手に振る舞う。それが、彼という人間なのだ。
そういう婚約者であったため、私はその婚約に苦痛を感じていた。といっても、それを億面に出すことはない。これも、家のため。そう考えて、私は耐えていたのである。
ある時、私はルグファドに呼び出された。なんでも、話があるらしいのだ。
「エルフィリナ、君との婚約を破棄したいのだ」
「え?」
開口一番、彼はそのようなことを言ってきた。
婚約を破棄する。まさか、そんなことを言われるとは思っていなかった。
その時、私の頭の中には様々な考えが駆け巡った。一番に思いついたのは、それがまずいことだということだ。
「待ってください。婚約破棄なんて、そんな急に……」
「もう君との婚約には耐えられない。僕には、もっと相応しい人間がいるはずだ」
「そんな……」
別に、私自身は彼との婚約にまったく未練はなかった。だが、婚約というものは家の問題だ。そのため、婚約破棄というのは非常にまずい。
だが、私は知っていた。彼は、一度言い出したら聞かない。私が何を言っても、聞いてくれる人ではないのだ。
だから、ここは諦めるしかないのかもしれない。そもそも、何故私がこんな男のために努力しなければならないのだろう。そういう気持ちもあって、半ば私は何も言いたくなくなっていた。
「エルフィリナ様、失礼します!」
「え?」
そこで、私について来ていた使用人が部屋の戸を一気に開いた。明らかに、何か焦っている。その様子から、私はそんなことを思った。
「な、なんだ急に……?」
「ルグファド様、突然申し訳ありません。ですが、エルフィリナ様に早急にお知らせしなければならないことがあるのです」
「何かあったの?」
「お祖母様が、危ない状態であるようです。エルフィリナ様にも、すぐに戻って来て欲しいと」
「なんですって!」
使用人の言葉に、私はとても驚いた。
当時、私のお祖母様は病気だった。そのため、そういう連絡が来ることはおかしいことではない。
だが、いざそういう連絡を受けるととても動揺してしまった。その時の私は、他のことを考える余裕などなく、とにかくお祖母様の元に行かなければならないと思ったのだ。
「ルグファド様、申し訳ありませんが、私は失礼させていただきます」
「え? あ、え、ああ……」
同じく動揺しているルグファド様を置いて、私は使用人とともに部屋を出た。
とにかく、お祖母様の元へ。その一心で、私は急ぐのだった。
ただ、私の身に起こった問題は、非常に数奇なものだったといえる。その事件は、後世に残すべきものだ。そう思ったため、私はこの日記を書くことにしたのである。
といっても、この事件は歴史を揺るがす大事件という訳ではない。端的に言えば、これは一人の貴族の乱心から始まった珍事だ。この日記を見つけた時、過度な期待をしないでもらいたいというのが、私の正直な気持ちである。
この話をするにあたって、まず知っておいてもらいたいのは、私がどういう人物かということだ。性格面という訳ではなく、どういう立ち位置にいたかが、今回の話では重要なのである。
エルフィリナ・アルガンテは、スレンド王国のアルガンテ侯爵家の長女である。兄がいるため、私は嫁に出されることになった。その相手こそが、今回の事件を引き起こした張本人なのだ。
ルグファド・レギグズは、レギグズ侯爵家の長男である。彼という人物は、はっきり言ってどうしようもない男だ。というのも、彼は少々自分本位な所があったのである。世界の中心に、自分がいる。そういう風に考える人物だったのだ。
だが、別にその考え自体は否定されるようなものではない。個人の考え方なのだから、そう思うことが悪いことだとは私も思っていない。
しかし、彼の問題は、それを他人にも強要することだった。わがままで自分勝手に振る舞う。それが、彼という人間なのだ。
そういう婚約者であったため、私はその婚約に苦痛を感じていた。といっても、それを億面に出すことはない。これも、家のため。そう考えて、私は耐えていたのである。
ある時、私はルグファドに呼び出された。なんでも、話があるらしいのだ。
「エルフィリナ、君との婚約を破棄したいのだ」
「え?」
開口一番、彼はそのようなことを言ってきた。
婚約を破棄する。まさか、そんなことを言われるとは思っていなかった。
その時、私の頭の中には様々な考えが駆け巡った。一番に思いついたのは、それがまずいことだということだ。
「待ってください。婚約破棄なんて、そんな急に……」
「もう君との婚約には耐えられない。僕には、もっと相応しい人間がいるはずだ」
「そんな……」
別に、私自身は彼との婚約にまったく未練はなかった。だが、婚約というものは家の問題だ。そのため、婚約破棄というのは非常にまずい。
だが、私は知っていた。彼は、一度言い出したら聞かない。私が何を言っても、聞いてくれる人ではないのだ。
だから、ここは諦めるしかないのかもしれない。そもそも、何故私がこんな男のために努力しなければならないのだろう。そういう気持ちもあって、半ば私は何も言いたくなくなっていた。
「エルフィリナ様、失礼します!」
「え?」
そこで、私について来ていた使用人が部屋の戸を一気に開いた。明らかに、何か焦っている。その様子から、私はそんなことを思った。
「な、なんだ急に……?」
「ルグファド様、突然申し訳ありません。ですが、エルフィリナ様に早急にお知らせしなければならないことがあるのです」
「何かあったの?」
「お祖母様が、危ない状態であるようです。エルフィリナ様にも、すぐに戻って来て欲しいと」
「なんですって!」
使用人の言葉に、私はとても驚いた。
当時、私のお祖母様は病気だった。そのため、そういう連絡が来ることはおかしいことではない。
だが、いざそういう連絡を受けるととても動揺してしまった。その時の私は、他のことを考える余裕などなく、とにかくお祖母様の元に行かなければならないと思ったのだ。
「ルグファド様、申し訳ありませんが、私は失礼させていただきます」
「え? あ、え、ああ……」
同じく動揺しているルグファド様を置いて、私は使用人とともに部屋を出た。
とにかく、お祖母様の元へ。その一心で、私は急ぐのだった。
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