婚約破棄が、実はドッキリだった? わかりました。それなら、今からそれを本当にしましょう。

木山楽斗

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 エルフィリナ・アルガンテという人物を説明するにあたって、ソルガード・ディレイズという人物の説明は必須だろう。
 彼は、ディレイズ公爵家の長男であり、とても誠実な男性だ。私が彼と最初に会ったのは、まだお互いに物心がつく前だったらしい。

 アルガンテ侯爵家は、ディレイズ公爵家と懇意にしていた。なんでも、元を辿ると親類であったらしいのだ。
 しかし、親類であるという理由だけで懇意にしていた訳ではないと私は思っている。お互いの両親を見ていると、馬が合うとしか言いようがない雰囲気を醸し出していたからだ。

 私が覚えている中で、ソルガードに最初に出会ったのは、晩餐会か何かの催しの時だった。両親同士の挨拶の後、私達兄弟は彼とその二人の妹を紹介してもらったのだ。

「エルフィリナは、覚えていないかもしれないけど、あなたはソルガード様に会ったことがあるのよ」
「そうなのですか?」
「ええ、まだ小さかったから仕方ないかもしれないけど、あなたは彼にとても懐いていたわ」

 お母様から言われて、私は初めて目の前にいる人物と会っていたことを認識した。
 自分より少し年上の男の子に懐いていたという事実は、少し恥ずかしいものだった。どういう顔をしていいのかわからなくなってしまったのだ。

「僕は覚えていますよ。ですが、初めましてといった方がいいでしょうか?」
「あ、えっと……そうですね。少なくとも私にとっては、初めまして、になってしまいます」
「残念ですね。あの時は、とても楽しかったのですが……ああ、あなたを責めている訳ではありませんよ。ただ、僕にとって、あれは懐かしい思い出なので……」

 ソルガード様は、私に対して苦笑いを浮かべていた。
 彼としては、複雑な心境だっただろう。一方的に覚えているというのは、きっと変な感じだったはずだ。

「改めて自己紹介させてもらいましょうか。僕は、ソルガード・ディレイズ。あなたの名前を教えてもらえますか?」
「え、ええ……」

 そこで、ソルガード様は少々大袈裟に身振り手振りを交えながら自己紹介してきた。その行動は、悪くいえば少し浮いていた。なんというか、その場にそぐわない気がしたのだ。

「ははっ!」
「お、お兄様、どうしたのですか?」

 ソルガード様の行動を見て、私の兄の一人が笑った。
 急に声をあげたので、私は思わず驚いてしまった。ソルガード様に続いて、お兄様もどうしたのだろうか。

「いや、なんでもない。それより、エルフィリナ、彼に自己紹介するのだ。敬意を持って、丁寧に……わかるな?」
「ふふっ……」

 お兄様の言葉に、今度はソルガード様が笑みを浮かべた。なんというか、二人だけで通じ合っているようだ。

「えっと、私はエルフィリナ・アルガンテと申します。ソルガード様、どうかこれからよろしくお願いいたします」
「ええ、もちろんです」

 挨拶が終わった直後、ソルガード様は私の手を取ってきた。
 そして、その手の甲にゆっくりと口づけをした。その時、なんだかすごく恥ずかしくなったことは今でも覚えている。
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