婚約破棄が、実はドッキリだった? わかりました。それなら、今からそれを本当にしましょう。

木山楽斗

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 私は、お祖母様がいる部屋の前まで来ていた。
 戸を叩くと、中からお祖母様のいつもと変わらない声が聞こえてきたため、私はとても安心しながら中に入ることができた。
 中にいたのは、お祖母様とソルガード様、それに妹のオルフィリアだ。使用人も医師もいないことから、お祖母様は本当にもう大丈夫なようである。

「エルフィリナ、待っていたわ。さあ、そこにかけなさい」
「お祖母様、ご無事だったようで何よりです。ソルガード様も、ありがとうございます。お忙しい中、わざわざご足労いただき……」
「エルフィリナ、そんなことを言わないでくれ。彼女は僕にとっても、祖母同然の存在だ。僕がここに来るのは、当然のことだよ」
「……ありがとうございます」

 お祖母様の指示に従って、私はベッドの近くの椅子に座った。
 やはり、ソルガード様はとてもお優しい方だ。彼を見ていると、自分の婚約者が改めて情けないように思えてしまう。

 考えてみれば、私の周りにいる男性は皆、立派な紳士だった。そんな環境で育ったためか、私は少し男性に対する理想が高かったのかもしれない。
 いや、例え理想が高かったとしても、ルグファド様がいいということにはならないだろう。彼は普通よりも下なのだから、そのはずである。

「それで、お祖母様、もうお体の方はなんともないのでしょうか?」
「ええ、もう元気いっぱいよ。大体、まだ死ぬには未練が多すぎるもの。せめて、あなた……いえ、オルフィリアの子供の姿を見るまでは死ぬつもりはないわ」
「流石です、お祖母様」

 お祖母様は、気丈に振る舞っていた。だが、その顔には少しだけ疲れが見える。やはり、かなり大変な状態だったようだ。

「ふふ、私はまだ婚約者すら決まっていませんから、お祖母様にはかなり長生きしてもらわなければなりませんわね」
「ええ、そうね、オルフィリア」

 オルフィリアの笑顔に、私も笑顔を見せる。例え危ない状態だったとしても、それを今表に出すべきではないと思ったからだ。
 お祖母様は、これからも長生きしてくれる。とりあえず、今はそう思っておくことにしよう。

「とりあえず、まずはエルフィリナということかしら? あなたは、婚約者も決まっていることだし、もう数年すれば子供の顔が見られるわね?」
「婚約者……あっ!」

 お祖母様の言葉に、私はあることを思い出した。そういえば、私は婚約破棄されたのだと。
 色々とあったため、この時私はまったくそのことが頭から抜けていた。よく考えてみれば、今はとてもまずい状況なのである。

「……どうやら、何かあったようね」
「え、ええ……」

 一番まずかったのは、お祖母様の前で動揺してしまったことだろう。病との戦いで疲れている彼女の前で、問題を示唆するようなことをしてはならなかったのである。
 だが、ここまで悟られたら隠しておくことはできない。お祖母様は聡明な人なので、そんなことはできないのである。
 という訳で、私は事情を話すことにした。思えば、この時のこの判断が功を奏したといえるかもしれない。
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