9 / 16
9.重大な失敗
しおりを挟む
オーロンド王国の王都を守る結界が崩壊したという事実は、すぐに上層部まで伝わることになった。
ことは重大である。一瞬できた隙によって、この王都は混乱するかもしれない。
そんな出来事を引き起こした一員である私は、ゼルフォン殿下の元へ連れて来られていた。
彼の前で、私は怯えることしかできない。いくらなんでも、ひどすぎる失敗をしたからだ。
「……この世の終わりのような顔をしているな?」
「……」
「まあ、仕方ないことだろうか。ことの大きさを理解しているならば、そういう顔にもならざるを得ない」
ゼルフォン殿下は、私の前でゆっくりとため息をついた。
そのため息に、私は体を震わせてしまう。これからどうなるかわからないという恐怖が、自然と私の体を動かしたのだ。
「しかし安心しろ。俺は君のことを咎めようとは思っていない。というよりも、俺に君は咎められない。それは君が一番よくわかっていることではないのか?」
「あっ……」
ゼルフォン殿下は、笑みを浮かべながら重要なことを指摘してきた。
その言葉で私は思い出す。私と彼との間には、約束を破れないという魔法の契約が交わされているのだと。
その契約によって、ゼルフォン殿下は私の安全を保障しなければならない。
例えどのようなことがあっても、彼は私のことを助けざるを得ないのだ。
それに関しては、まったく想定していなかった副産物である。
まさかこんな時に役に立つなんて、思ってもいなかった。
「もっとも、俺が許さざるを得ない状況であったとしても、父上や兄上、その他の者達は君を許しはしないだろうが……」
「……それはそうですよね」
「ただ、今回の件に関しては話しが色々と別だ。君を咎める必要がないと、恐らく全員が判断するだろう」
「え?」
ゼルフォン殿下の言葉に、私は少し混乱していた。
どうして私が、咎められないということになるのだろうか。失敗は失敗なのだから、どう考えても何かしらの罰を受けると思うのだが。
「君は気付いていないようだが、今回の件には聖女エムリーナの思惑が隠れている……いや、隠れているというのは大袈裟か。実際の所、彼女の思惑は多くの者に知られているのだからな」
「……どういうことですか?」
「端的に言ってしまえば、君は嵌められたのだよ。聖女エムリーナにとって、君は邪魔者だった。故に彼女は、君を排除する策略を企てたのだ」
「なっ……」
私は思わず、声にならない声を出していた。
聖女エムリーナの策略、そんなものがあったなんて、まったく思っていなかったからだ。
ことは重大である。一瞬できた隙によって、この王都は混乱するかもしれない。
そんな出来事を引き起こした一員である私は、ゼルフォン殿下の元へ連れて来られていた。
彼の前で、私は怯えることしかできない。いくらなんでも、ひどすぎる失敗をしたからだ。
「……この世の終わりのような顔をしているな?」
「……」
「まあ、仕方ないことだろうか。ことの大きさを理解しているならば、そういう顔にもならざるを得ない」
ゼルフォン殿下は、私の前でゆっくりとため息をついた。
そのため息に、私は体を震わせてしまう。これからどうなるかわからないという恐怖が、自然と私の体を動かしたのだ。
「しかし安心しろ。俺は君のことを咎めようとは思っていない。というよりも、俺に君は咎められない。それは君が一番よくわかっていることではないのか?」
「あっ……」
ゼルフォン殿下は、笑みを浮かべながら重要なことを指摘してきた。
その言葉で私は思い出す。私と彼との間には、約束を破れないという魔法の契約が交わされているのだと。
その契約によって、ゼルフォン殿下は私の安全を保障しなければならない。
例えどのようなことがあっても、彼は私のことを助けざるを得ないのだ。
それに関しては、まったく想定していなかった副産物である。
まさかこんな時に役に立つなんて、思ってもいなかった。
「もっとも、俺が許さざるを得ない状況であったとしても、父上や兄上、その他の者達は君を許しはしないだろうが……」
「……それはそうですよね」
「ただ、今回の件に関しては話しが色々と別だ。君を咎める必要がないと、恐らく全員が判断するだろう」
「え?」
ゼルフォン殿下の言葉に、私は少し混乱していた。
どうして私が、咎められないということになるのだろうか。失敗は失敗なのだから、どう考えても何かしらの罰を受けると思うのだが。
「君は気付いていないようだが、今回の件には聖女エムリーナの思惑が隠れている……いや、隠れているというのは大袈裟か。実際の所、彼女の思惑は多くの者に知られているのだからな」
「……どういうことですか?」
「端的に言ってしまえば、君は嵌められたのだよ。聖女エムリーナにとって、君は邪魔者だった。故に彼女は、君を排除する策略を企てたのだ」
「なっ……」
私は思わず、声にならない声を出していた。
聖女エムリーナの策略、そんなものがあったなんて、まったく思っていなかったからだ。
54
あなたにおすすめの小説
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
聖女は神の力を借りて病を治しますので、神の教えに背いた病でいまさら泣きついてきても、私は知りませんから!
甘い秋空
恋愛
神の教えに背いた病が広まり始めている中、私は聖女から外され、婚約も破棄されました。
唯一の理解者である王妃の指示によって、幽閉生活に入りましたが、そこには……
ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜
嘉神かろ
恋愛
魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。
妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。
これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。
聖水を作り続ける聖女 〜 婚約破棄しておきながら、今さら欲しいと言われても困ります!〜
手嶋ゆき
恋愛
「ユリエ!! お前との婚約は破棄だ! 今すぐこの国から出て行け!」
バッド王太子殿下に突然婚約破棄されたユリエ。
さらにユリエの妹が、追い打ちをかける。
窮地に立たされるユリエだったが、彼女を救おうと抱きかかえる者がいた——。
※一万文字以内の短編です。
※小説家になろう様など他サイトにも投稿しています。
森聖女エレナ〜追放先の隣国を発展させたら元婚約者が泣きついてきたので処刑します〜
けんゆう
恋愛
緑豊かなグリンタフ帝国の森聖女だったエレナは、大自然の調和を守る大魔道機関を管理し、帝国の繁栄を地道に支える存在だった。だが、「無能」と罵られ、婚約破棄され、国から追放される。
「お前など不要だ」 と嘲笑う皇太子デュボワと森聖女助手のレイカは彼女を見下し、「いなくなっても帝国は繁栄する」 と豪語した。
しかし、大魔道機関の管理を失った帝国は、作物が枯れ、国は衰退の一途を辿る。
一方、エレナは隣国のセリスタン共和国へ流れ着き、自分の持つ「森聖力」の真価 に気づく……
神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)
京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。
生きていくために身を粉にして働く妹マリン。
家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。
ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。
姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」
司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」
妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」
※本日を持ちまして完結とさせていただきます。
更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。
ありがとうございました。
報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?
小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。
しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。
突然の失恋に、落ち込むペルラ。
そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。
「俺は、放っておけないから来たのです」
初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて――
ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。
【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」
まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。
【本日付けで神を辞めることにした】
フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。
国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。
人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
アルファポリスに先行投稿しています。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる