私を陥れたつもりのようですが、責任を取らされるのは上司である聖女様ですよ。本当に大丈夫なんですか?

木山楽斗

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8.たった数秒でも

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 私は、エムリーナ様とともに結界の制御室に来ていた。
 ここでは、王都を守る結界を管理することができる。王城の中でも、限れた人しか入ることができない特別な場所だ。

「アルエリアさんのことですから、結界の再構成がどのようにして行われるかなんてことはわかっていますよね?」
「ええ、もちろんです。ただ念のため、ご教授願えますか?」
「……仕方ありませんね。これも手順の内ですか」

 エムリーナ様は、私の言葉に少しだけいつもの不機嫌そうな顔をした。
 説明するのが面倒だとか、そんな風に思っているのだろう。

 ただ、こういう時には確認をしておくのが取り決めだ。
 その取り決めは、流石の彼女も無視しないらしい。断られる可能性もあると思っていたのだが。

「結界を再構成する時は、元々ある結界を維持しつつその外側あるいは内側に新しい結界を張り巡らせます。ただ、結界同士が干渉しますから、非常に不安定な状態になります。それによって結界が一時でも解除されたら、困ったことになってしまいます」
「結界は王都を守る要ですからね」
「ええ、ですから、私が新しい結界を張る間、アルエリアさんには古い結界を維持してもらいます。こちらも中々に負担が多きですが、まあアルエリアさんなら問題はありませんね?」
「ええ、もちろんです」

 エムリーナ様の言葉に、私はゆっくりと頷く。
 古い結界の維持は、それなりに難しいものだ。ただ、私は特に心配していない。それくらいのことができなければ、こんな仕事には就けていないからだ。

 恐らく、エムリーナ様の方も問題はないだろう。
 彼女の力なら、まず失敗しない。色々と問題がある人だが、その実力だけは私も信頼している。

「それでは、行きましょうか?」
「ええ、よろしくお願いします」

 私とエムリーナ様は、部屋の中央にある大きな水晶に手をかざす。
 その水晶は、結界を張るための媒介だ。これに触れることによって、私達は結界を操ることができるようになる。

 私は、古い結界に己の魔力を集中させていく。
 ただ、そこで違和感を覚えた。古い結界が、なんだか不安定過ぎるのだ。

「エムリーナ様、少しお待ちください。古い結界が不安定過ぎます。こちらを支える者がもう一人は必要かと」
「……今何か言いましたか?」
「え?」

 私の制止も聞かずに、エムリーナ様は新たな結界を張り巡らせていた。
 それによって、古い結界に干渉が起こる。その干渉は、私であっても止めきれない程に激しいいものだった。

 私は結界が崩れ去っていくのを感じた。
 それが零れ落ちて行く感覚は、なんとも表しがたい程に絶望的なものだった。

 ただ幸いなことに、新しい結界は順調に構築されている。
 王都を守る結界が崩壊したのは、ほんの数秒であるだろう。

 しかしほんの数秒であっても、これが重大なことであることは変わらない。
 私とエムリーナ様は、大きな失敗をしてしまったのである。
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