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1.大切な家族

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 私の顔には、生まれつき大きな痣があった。
 顔の半分程を覆う大きな痣は、オーデン伯爵家の令嬢である私にとっては、大きな問題であった。

 貴族というものは、そういった他者と異なる点に関しては敏感だ。
 痣に限らず、例えば傷などでも忌避される。婚約を結び、家を発展させる役目を持つ令嬢として、私は機能しない可能性があったのだ。

 そういうものが理解できるようになったのは、物心がついてから少し経ってのことだった。
 次期当主として努力するお兄様や、婚約のために自分を磨き続けるお姉様。そういった兄姉をよく知っていたからこそ、家のために役に立てないという事実には、幼いながらもショックを受けたものだ。

 どうやってオーデン伯爵家に尽くしていけばいいのか。私はある時から、悩むようになっていた。

「くだらん」

 そんな私に対して、お兄様は一言そう言ってきた。
 お兄様は、自分にも他人も厳しい人である。故に弱気なことを言った私に対して、少し怒っているのかもしれない。

「エレティア、お前の価値は婚約できるかどうかなどで決まる訳ではない。そんなことは些細なことだ」
「さ、些細なこと、ですか?」
「お前はそんなくだらないことなど気にする必要はない。ただ真っ直ぐに胸を張って生きろ。後のことは、この俺に任せておけばいい」

 そこでお兄様は、少しぎこちない手つきで私の頭を撫でてきた。
 どうやら私は、お兄様の言葉を勘違いしていたようである。

 どこまでも優しい彼が怒っていたのは、きっと私の痣を忌避する人達だ。
 お兄様自身は、いつだって私の味方なのである。私はその時、それを強く認識した。

「……お兄様の言う通り」
「お姉様?」
「エレティアは、そこにいて笑顔で笑ってくれているだけでいいの。あなたはそれだけで、オーデン伯爵家の役に立っているのだもの」

 今までの話を聞いていたらしいお姉様は、突然現れてお兄様とは反対側の私の頭を、優しい手つきで撫で始めた。
 彼女もお兄様と同じなのだ。いつだって私の味方でいてくれる人なのだ。

「ふふ、私達の子供達は、本当にいい子供達ね?」
「ああ、そうだね。三人とも誇り高き子供達だ。オーデン伯爵家の未来は安泰だ」

 そんな私達の様子をやって来た両親は、笑顔で見ていた。
 そんな四人の様子を見ながら、私は思っていた。私の顔にあるこの痣なんて、大したものではないのだということに。
 家族がいれば、この先に待っているどんな困難だって乗り越えることができる。そう思いながら、私は笑顔を浮かべるのだった。
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