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6.奇妙な会合(ディレン視点)
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王城で働き始めるようになってから、僕は一度も聖女様と会っていない。
もちろん、まだ下っ端でしかない僕が彼女に関わる機会がないといえばそれだけのことなのかもしれない。
だが、王城内に流れている噂に僕は色々と思うことになった。本当に、聖女様は何もしていないのではないかと。
「まあ、そんなことを気にしている余裕なんてないか……」
ただ、そんなことは僕にとっては些細なことだった。
下っ端であっても王城での仕事は大変だ。まだ新しい生活にも慣れていないし、聖女様のことなんて考えている余裕がない。
「ふう……」
「おや、ディレン君ではないか? どうして君がこんな所に?」
「え? カークス様?」
そんなことを考えながら作業をしている僕に、カークス様が声をかけてきた。
どうしてこんな所にいるのか。その質問をしたいのは、僕の方である。倉庫なんて、王子が来るような場所ではないはずなのだが。
「あ、えっと……仕事で使った道具をしまっているんです」
「ああ、そういった雑用か……いや、待ちたまえ。もう業務時間は終わっているだろう?」
「それは、そうですね。でも、頼まれてしまったので……」
「頼まれた?」
「え、ええ、先輩方に……」
僕の言葉に、カークス様は顎の下に手を当てた。
何かを考えるような仕草だ。とりあえず、僕は続く言葉を待つ。
「押し付けられたといった所か……」
「押し付けられた?」
「稀に新人に無理な頼みを押し付ける者がいる……よくない傾向だ。君はまだこの環境に慣れていない。無理をさせると壊れる可能性がある」
「いえ、これくらいは問題ありません」
「いや、問題なのさ。僕は新人が潰れる所を何度も見たからね。まあ、このくらいなら百歩譲っていい。だが、これが段々とエスカレートしていくかもしれない」
カークス様は、僕の肩にゆっくりと手を置く。
よくわからないが、彼は上司として色々な人を見てきたはずだ。そんな彼がそう言っているのだから、僕がやっていることはいいことではないのかもしれない。
「君には大いなる才能がある。その才能は、潰れてはならないものだ……ふむ、片付けというなら、私がやっておこう。君はもう帰るといい」
「え? いや、そんな訳にはいきません。王子にそんなことをさせるなんて……」
「君は真面目なようだね。そういう所も気に入った。同時に危険でもある。君は、潰されかねない」
カークス様は、僕の瞳を真っ直ぐに見てきた。
その視線に、僕は思わず後退った。すると王子は、驚いたような顔をする。
「おや、どうかしたのかな?」
「いえ……」
気がついたら、僕の額からは汗がびっしりと流れていた。
それが何故なのかがわからない。だが、僕は底知れぬ恐怖を感じていた。
「顔色が良くないみたいだね……やはり、早く帰った方がいい。道具の片づけは、そうだな……使用人でも任せるとしよう。倉庫の掃除などは、彼らの領分だ。片付けくらいなら、やってくれるだろう」
「あ、別に僕は……」
「帰れと言った方がいいかな? これは、命令であるということにしよう」
「……わ、わかりました」
カークス様の言葉に、僕は頷くしかなかった。
上司の命令、そう言われたらもう従う以外ない。それが、この場における決まりである。彼に逆らったら、上下関係が大変なことになってしまう。
こうして、僕は宿舎に帰ることになった。色々と違和感があったが、とにかくそうすることしかできなかったのである。
もちろん、まだ下っ端でしかない僕が彼女に関わる機会がないといえばそれだけのことなのかもしれない。
だが、王城内に流れている噂に僕は色々と思うことになった。本当に、聖女様は何もしていないのではないかと。
「まあ、そんなことを気にしている余裕なんてないか……」
ただ、そんなことは僕にとっては些細なことだった。
下っ端であっても王城での仕事は大変だ。まだ新しい生活にも慣れていないし、聖女様のことなんて考えている余裕がない。
「ふう……」
「おや、ディレン君ではないか? どうして君がこんな所に?」
「え? カークス様?」
そんなことを考えながら作業をしている僕に、カークス様が声をかけてきた。
どうしてこんな所にいるのか。その質問をしたいのは、僕の方である。倉庫なんて、王子が来るような場所ではないはずなのだが。
「あ、えっと……仕事で使った道具をしまっているんです」
「ああ、そういった雑用か……いや、待ちたまえ。もう業務時間は終わっているだろう?」
「それは、そうですね。でも、頼まれてしまったので……」
「頼まれた?」
「え、ええ、先輩方に……」
僕の言葉に、カークス様は顎の下に手を当てた。
何かを考えるような仕草だ。とりあえず、僕は続く言葉を待つ。
「押し付けられたといった所か……」
「押し付けられた?」
「稀に新人に無理な頼みを押し付ける者がいる……よくない傾向だ。君はまだこの環境に慣れていない。無理をさせると壊れる可能性がある」
「いえ、これくらいは問題ありません」
「いや、問題なのさ。僕は新人が潰れる所を何度も見たからね。まあ、このくらいなら百歩譲っていい。だが、これが段々とエスカレートしていくかもしれない」
カークス様は、僕の肩にゆっくりと手を置く。
よくわからないが、彼は上司として色々な人を見てきたはずだ。そんな彼がそう言っているのだから、僕がやっていることはいいことではないのかもしれない。
「君には大いなる才能がある。その才能は、潰れてはならないものだ……ふむ、片付けというなら、私がやっておこう。君はもう帰るといい」
「え? いや、そんな訳にはいきません。王子にそんなことをさせるなんて……」
「君は真面目なようだね。そういう所も気に入った。同時に危険でもある。君は、潰されかねない」
カークス様は、僕の瞳を真っ直ぐに見てきた。
その視線に、僕は思わず後退った。すると王子は、驚いたような顔をする。
「おや、どうかしたのかな?」
「いえ……」
気がついたら、僕の額からは汗がびっしりと流れていた。
それが何故なのかがわからない。だが、僕は底知れぬ恐怖を感じていた。
「顔色が良くないみたいだね……やはり、早く帰った方がいい。道具の片づけは、そうだな……使用人でも任せるとしよう。倉庫の掃除などは、彼らの領分だ。片付けくらいなら、やってくれるだろう」
「あ、別に僕は……」
「帰れと言った方がいいかな? これは、命令であるということにしよう」
「……わ、わかりました」
カークス様の言葉に、僕は頷くしかなかった。
上司の命令、そう言われたらもう従う以外ない。それが、この場における決まりである。彼に逆らったら、上下関係が大変なことになってしまう。
こうして、僕は宿舎に帰ることになった。色々と違和感があったが、とにかくそうすることしかできなかったのである。
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