旦那様の不手際は、私が頭を下げていたから許していただけていたことをご存知なかったのですか?

木山楽斗

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7.覚悟できること

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「……リメリア嬢、はっきりと言っておこう。俺は今回の婚約に乗り気という訳ではない」
「そ、そうですか」

 バルハルド様は、私が思っていた通りの言葉を発した。
 彼は私に、少し気まずそうな視線を向けてきている。それは申し訳なさの表れだろうか。
 ということは、原因は別に私にあるとかではなさそうだ。もしかしたら彼は、自分の出自を気にしているのかもしれない。

「知っての通り、俺は妾の子だ。ベルージュ侯爵家の正当なる血筋ではない。そのような者と結婚などしても、苦労ばかりだ。世の貴族達から、何を言われるかわからん」
「それは……」

 バルハルド様の懸念は、やはり出自にあるようだった。
 残念ながら、それは事実ではある。妾の子というのは、やはりどうしても立場が悪い。それ由来の苦労も、もちろんあるだろう。

「私も同じですよ。バツイチの令嬢なんて、扱いにくいでしょうからね」
「む……」
「バルハルド様の出自など、私達ルヴァーリ伯爵家は気にしません。私という厄介な立場にある娘を嫁がせることができて、ベルージュ侯爵家との繋がりができる。メリットしかないと思えるくらいです」

 私は、少し大袈裟なことをバルハルド様に述べた。
 実際の所、私の扱いがどれくらい厄介かなどはわからない。しかしここは、断定して話しておいた方がいいだろう。
 今回の婚約は、どう考えても成立させた方がいいものだ。それは間違いないのだから。

「多少の風評は、覚悟できます。ですから、バルハルド様が懸念しているようなことで、この話をなしにしてもらいたくはありません」
「なるほど……」

 私の言葉に、バルハルド様は目を細めていた。
 彼は、私の目をしっかりと見つめている。それは何かを見定めているかのように思えた。
 それなら私は、このまま彼に覚悟を見せるとしよう。

「バルハルド様としては、実際どうなのですか? 妻を迎えたりしたくないのでしょうか?」
「いや、そういう訳ではない。俺も立場上、妻は迎えるべきだと思っている」
「それが私ではいけませんか?」
「なるほど……あなたの覚悟はわかった。それなら改めて願うとしよう。俺の妻になってもらえるか?」
「ええ、もちろんです」

 バルハルド様が差し出した手を、私はしっかりと握った。
 とりあえず、これで話はまとまった。もちろん、正式に婚約するためには両親などに話を通さなければならないが、その辺りは多分大丈夫だろう。

「さて、ファナト。俺はそろそろ出なければならない。後のことは任せられるだろうか」
「ええ、兄上、頑張ってくださいね」
「……バルハルド様は、どこに行かれるのですか?」

 話が一区切りついて、バルハルド様は近くに会った鞄を手に取った。 
 これからどこかに出掛けるということなのだろう。その行き先が、私は少し気になってしまった。

「……せっかくの機会だ。リメリア嬢には俺のもう一つの顔を教えておくとしよう」
「え?」
「あなたにも同行してもらう。構わないな?」
「え、ええ……バルハルド様がいいなら、別にいいですけど」

 私はバルハルド様に手を握られて、そのまま歩み始めることになった。
 こうして私は、訳が分からないままバルハルド様に付いて行くのだった。
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