旦那様の不手際は、私が頭を下げていたから許していただけていたことをご存知なかったのですか?

木山楽斗

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10.始まりは何であれ

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「驚きました。まさかバルハルド様が、商会の長だったなんて……」
「驚くのも無理はないことだろうな。我ながら中途半端な限りではあるがな」
「中途半端なんて、そんなことはありません。これ程の商会の長になるなんて、そう簡単にできることではないでしょう。バルハルド様の立派さが伝わってきます」

 バルハルド様は、相も変わらず自嘲気味に笑みを浮かべていた。
 彼の根底には、恐らく妾の子としての負い目のようなものがあるのだろう。だから、自分の努力などを素直に認められないのだ。

 私からしてみれば、そんな風に考える必要などはないと思ってしまう。だが、彼からしてみればそうではないのだろう。
 その辺りは、私にはわからないことだ。正当なる血族である私には、きっと一生理解することはできないことなのだろう。

「もちろん、俺も自分の成果は誇れるものだとは思っている。だが、これはそもそも、ベルージュ侯爵家への当てつけで始めたことだ。復讐と言い換えてもいいか。俺は自らの力で成り上り、母を弄んだ父の所業を世に知らしめようとしていた」
「……権力得て、潰されないようにした、ということですか?」
「ああ、だが、そのようなことをする必要はなかった。父が自ら俺の存在を認知したからな。結局俺は、ベルージュ侯爵家の一員となった……」

 バルハルド様の言葉に、私は彼の言動にある程度納得した。
 不純な動機で始めたことを素直に誇ることができないのは、当然といえば当然だ。
 彼がここまで成り上がれたのは、憎しみが原動力だったのだろう。その根底が否定された今、どうしていいのかわからなくなっているのだろう。

「……それでもすごいことだと私は思います。バルハルド様は、こうして未だに商会を支えているのですから」
「む……」
「投げ出すことだって、できない訳ではなかったはずです。でも、バルハルド様は続けている。そこには誇りがあるからでしょう。今までの短い間でも、私にはそれがわかりました」

 今日見たバルハルド様の商人としての一面は、ほんの一欠けらでしかないはずだ。
 しかしそれでも、私はそこに彼の矜持を見た。それが伝わってくる程に、彼は真摯に向き合っているということだろう。
 動機は不純なものが含まれていたのかもしれないが、今はそれだけではない。それだけは確かなことだ。

「ふっ……リメリア嬢、あなたを妻に迎え入れられることを改めて嬉しく思う」
「そうですか?」
「あなたには、俺以上に誇りや矜持といったものがある。英雄の血筋は伊達ではないということだろう」
「ええ、もちろんですとも」

 私はバルハルド様の言葉に、笑顔で答えた。
 彼に改めて認められたという事実は、嬉しく思う。なんというか、これからもバルハルド様とは上手くやっていけそうだ。
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