旦那様の不手際は、私が頭を下げていたから許していただけていたことをご存知なかったのですか?

木山楽斗

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11.緊張していたかは

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 両親もお兄様もお義姉様も、バルハルド様との婚約をとても喜んでくれた。
 妾の子であっても、やはりベルージュ侯爵家との繋がりは大きい。そう思っているのも、その理由の一端であるだろう。
 ただ喜んでくれている一番の理由は、私がバルハルド様のことを楽しそうに話したからであるそうだ。私が婚約に前向きならそれでいいと、皆思ってくれているらしい。

「……しかし、流石ですね、バルハルド様は」
「……何の話だ?」
「挨拶ですよ。こう言うのはなんですが、とても良かったです」

 バルハルド様は、私の家族に挨拶するためにルヴァーリ伯爵家にやって来た。
 彼の挨拶は、見事なものだったといえるだろう。私の家族も皆、好感を抱いていたように思える。やはり商会の長だけあって、人の心を掴むのは上手いということだろうか。

「それなら良かった。俺としても安心できる」
「安心……バルハルド様でも、そういう風に思われるんですね?」
「……どういう意味だ?」
「いえ、とても堂々としていたので、緊張とかしていないのだと思っていましたが」
「……いや、緊張はしていた。当然のことではあるが、俺はこういった挨拶に赴くのは、初めてのことだからな」
「そうなのですか……」

 バルハルド様の言葉に、私は少し驚いた。
 彼は緊張とかそういったものとは、無縁とばかり思っていた。堂々と、また飄々としているバルハルド様がでも、人並みに緊張するものなのだろうか。

「意外そうな顔をしているな?」
「え? あ、その……意外ですから」
「くくくっ……まあ、そう見られているというなら、わざわざ種を明かす必要もなかったか。妻の前では、多少格好つけられる方が良い」
「……バルハルド様は、ちょっとキザですね?」
「冗談だ……」

 私の言葉に、バルハルド様はまた自嘲気味に笑みを浮かべていた。
 それは、あまり面白くもない冗談を言ったからだろうか。いや、多分そういう訳でもないだろう。

「どう見えているかは知らないが、俺はこれでも普通の人間だ。そこまで立派な人間ではない。そうあろうとはしているが、そうできないのが現実というものだ」
「そうあろうとしていることが、そもそも立派なことだと思います。本当に普通の人であるならば、どこかで心が折れてしまうものでしょうから」
「ふっ、あなたはどこまでも俺を肯定してくれるな。悪くない気分だが、その言葉を疑いそうになってしまう」
「私は本当にそう思っていますよ」

 バルハルド様のことを知れば知る程、彼に対する敬意が芽生えてくる。
 だからこそ、思うのはバルハルド様の自己評価の低さだ。
 それをなんとかしたいと思ってしまう。これから私が、バルハルド様が嫌がるくらいに褒めるとしようか。
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