旦那様の不手際は、私が頭を下げていたから許していただけていたことをご存知なかったのですか?

木山楽斗

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20.幸福な婚約

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「リメリア嬢、すまなかったな。ベルザスも普段なら、あのように不躾ではないのだ。今日は予想外の収穫に、冷静さを失っているらしい」
「いえ、別に私はベルザスさんの言葉で不快になったりしていませんよ?」
「しかし俺は、あなたを商談のために妻を迎える訳ではない。あのようなことを言われるのは、正直不快だ」
「バルハルド様……」

 私とバルハルド様は、とある場所に向かっていた。
 そこに行くということが、私が今回同行した理由だ。その道中で、バルハルド様は嬉しいことを言ってくれた。

「でもバルハルド様、利用できる方は利用した方がお得ですよ。せっかく私を妻にするのですから、ラルバルースの名前は利用していかないと……」
「……あなたは中々に強かだな」
「貴族の令嬢ですからね。強かでなければなりません」
「そういうものか?」
「そういうものです」

 バルハルド様は、商人としてとか、ラルバルースの末裔だからとか、そういった理由で私を選んでくれた訳ではないのだろう。
 彼は、私の人柄をきちんと見てくれている。それは何よりも、嬉しいことだ。
 ただ私は、ラルバルースの名前を使うことに躊躇いなどはない。むしろ積極的に利用していきたいので、それは理解してもらわなければならないだろう。

「……無論、俺も使えるものは使える主義だ。身を固めるべきだと考えたのも、その方が取引先の心証がいいからだ」
「ああ、そういえば、そんなことを言っていましたね……でもそう言いながらも、自分の出自で私が苦労することを心配してくれていました」
「いや、それは……」
「バルハルド様は、お優しい方です。一緒に過ごしていく内に、それがどんどんと理解できてきました。バルハルド様の妻になれることを、本当に嬉しく思っています」

 婚約というものは、家のために行うことで、私はその相手についてそれ程深く考えていなかった。そうなるものとしか、思っていなかったのだ。
 だけど今は、結婚に対して非常に前向きな思いを抱えられている。それはなんというか、不思議な感覚だ。

「……それについては、俺も同じだ。リメリア嬢を妻に迎えられることを幸福に思っている。良き縁に恵まれたということは、ベルザスの言う通りだ」
「そうですね。本当に良き縁です」

 バルハルド様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 そこで頭を過ってきたのは、ウルガド様だ。バルハルド様との縁は、彼がもたらしてくれたものだといえる。
 そう考えると、少々複雑な気分だ。急に離婚を言い渡した彼に対して、今になって少しだけ感謝の念が芽生えるなんて、思ってもいなかったことである。
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