旦那様の不手際は、私が頭を下げていたから許していただけていたことをご存知なかったのですか?

木山楽斗

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19.成功した商談

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 私は、バルハルド様とともにとある町に足を運んでいた。
 仕事の都合でその町へ行かなければならないバルハルド様に、私が同行してきたのだ。

「いや、バルハルド様、奥様の影響というのはすごいものですね」
「ベルザス、リメリア嬢はまだ俺の妻になったという訳ではない。今はまだ、婚約者の段階だ」
「何れそうなるなら、良いではありませんか。しかし、ここまで上手くいくとは……」

 秘書のベルザスさんは、以前会った時よりも興奮しているようだった。
 それは今日の商談が、上手くいったからなのだろう。
 その商談には、私も同席していた。お得意様が相手だったらしく、婚約の報告も兼ねていたようだ。

「婚約によって利益があったということはわかっている。やはり身を固めていた方が心証は良いということだろう」
「もちろん、その効果もあるでしょうが、リメリア様の出自も商談の成功には関係しているでしょう。英雄ラルバルースの子孫というのは、やはり強力です」

 商談の相手に、私がラルバルースの末裔であるということを話すと、かなり盛り上がった。
 どうやらラルバルースのファンだったらしく、サインして欲しいと言われたくらいだ。
 末裔でしかない私のサインに価値なんてないと思ったのだが、バルハルド様の取引相手ということもあって、一応サインはしておいた。色紙に自分の名前を書くなんて、初めての経験だ。

「まるで舞台女優だとか、そのような扱いで少し驚いてしまいました」
「すまなかったな。俺のせいで、あなたには迷惑をかけてしまった」
「いえ、別に持てはやされることは不快なことではありませんから。むしろ、お役に立てて嬉しいと思っているくらいです」

 ラルバルースの血筋という事実は、今まで何度も私のことを助けてくれた。それは今回も、役に立ったといえる。
 ご先祖様には、感謝しなければならない。今度、お墓に好きだったとされるお酒でも持っていくとしようか。いや、それはファンの人達が既に持って行っているだろうか。

「いや、奥様はできた奥様ですな? バルハルド様は良き縁に恵まれたといえる」
「まだ結婚していないと言ったはずだが?」
「いえいえ、もう結婚を確定させておきましょう。リメリア様がいると、我らが商会はさらに盤石になるのですから」
「ベルザス、興奮し過ぎだ。それ以上喋られると、俺もその口を物理的に塞がざるを得なくなる」

 商談の成功によって、ベルザスさんは冷静ではないのだろう。
 年甲斐もなくはしゃぐ彼に、バルハルド様は少し怒っているようだった。
 私としては、別に彼の言葉は嬉しいものだ。できることなら、このままバルハルド様の良き妻として生きていきたいものである。
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