30 / 50
30.夜分に訪ねて
しおりを挟む
「夜分遅くに、申し訳ありません」
「いや、別に俺は構わない」
夕食や入浴を終えた夜、私はバルハルド様の部屋を訪ねていた。
彼とは、一度話しておかなければならないことがある。そのための話をしたいずっと思っていたのだが、色々とあってこんな時間までもつれ込んでしまったのだ。
夜に婚約者の部屋を訪ねるということには、少々の緊張がある。しかしバルハルド様は平然としているし、あまり気にする必要などはないのかもしれない。
「実はどうしても話しておきたいことがあって」
「ほう、重要な話であるようだな?」
「ええ、重要な話です。その……バルハルド様のお母様のことで」
「む……」
私の言葉に、バルハルド様は彼にしては珍しい程に、目を丸めていた。そんなに意外なことなのだろうか。
いや、そうなのかもしれない。今まで私から、そのことに触れたことはなかったのだから。
「母とは、俺の生みの母と認識していいのか?」
「ええ、ベルージュ侯爵夫人の話ではありません。実は、バルハルド様のお母様に挨拶をしていないということに気付いて」
「挨拶?」
「申し訳ありません。本来ならもっと早くに気付くべきことだったというのに……」
バルハルド様は、呆気に取られたような表情で固まっていた。
それも彼にしては、珍しい表情だ。お母様に関する話だからだろうか。今の彼には、いつものような冷静さがない。
「……なるほど。リメリア嬢が何を思っているかは、理解できた。もちろん、そういうことなら母に挨拶する機会は設けよう」
「そうしていただけると、助かります」
「しかし、それは別に気に病むようなことではない。あなたがするべき挨拶は、ベルージュ侯爵家の範囲で終わっている。それ以上は蛇足というものだ」
「だ、蛇足だなんて、そんな……」
「ああいや、今のは大袈裟な言い方に過ぎない。もちろん、リメリア嬢の心遣いは嬉しく思っている」
バルハルド様は、なんというか温かな笑みを浮かべていた。
家庭的とでもいうのだろうか、貴族や商人としてではない彼の表情が見られた気がする。それが私は、少し嬉しかった。
「それはまあ、大切なことですからね。だからこそ、失念していたのがとても申し訳ないと言いますか……」
「気にするなと言っているだろう。そうだな……明日にでも俺の故郷に行くとするか。母の墓はそこにある。ここからそんなに時間はかからない」
「そうなんですね。わかりました。それなら、明日挨拶させていただきます」
バルハルド様の提案に、私はゆっくりと頷いた。
無事に挨拶の日程が決まったため、私は安心する。これで気掛かりだったことを解決できそうだ。
「いや、別に俺は構わない」
夕食や入浴を終えた夜、私はバルハルド様の部屋を訪ねていた。
彼とは、一度話しておかなければならないことがある。そのための話をしたいずっと思っていたのだが、色々とあってこんな時間までもつれ込んでしまったのだ。
夜に婚約者の部屋を訪ねるということには、少々の緊張がある。しかしバルハルド様は平然としているし、あまり気にする必要などはないのかもしれない。
「実はどうしても話しておきたいことがあって」
「ほう、重要な話であるようだな?」
「ええ、重要な話です。その……バルハルド様のお母様のことで」
「む……」
私の言葉に、バルハルド様は彼にしては珍しい程に、目を丸めていた。そんなに意外なことなのだろうか。
いや、そうなのかもしれない。今まで私から、そのことに触れたことはなかったのだから。
「母とは、俺の生みの母と認識していいのか?」
「ええ、ベルージュ侯爵夫人の話ではありません。実は、バルハルド様のお母様に挨拶をしていないということに気付いて」
「挨拶?」
「申し訳ありません。本来ならもっと早くに気付くべきことだったというのに……」
バルハルド様は、呆気に取られたような表情で固まっていた。
それも彼にしては、珍しい表情だ。お母様に関する話だからだろうか。今の彼には、いつものような冷静さがない。
「……なるほど。リメリア嬢が何を思っているかは、理解できた。もちろん、そういうことなら母に挨拶する機会は設けよう」
「そうしていただけると、助かります」
「しかし、それは別に気に病むようなことではない。あなたがするべき挨拶は、ベルージュ侯爵家の範囲で終わっている。それ以上は蛇足というものだ」
「だ、蛇足だなんて、そんな……」
「ああいや、今のは大袈裟な言い方に過ぎない。もちろん、リメリア嬢の心遣いは嬉しく思っている」
バルハルド様は、なんというか温かな笑みを浮かべていた。
家庭的とでもいうのだろうか、貴族や商人としてではない彼の表情が見られた気がする。それが私は、少し嬉しかった。
「それはまあ、大切なことですからね。だからこそ、失念していたのがとても申し訳ないと言いますか……」
「気にするなと言っているだろう。そうだな……明日にでも俺の故郷に行くとするか。母の墓はそこにある。ここからそんなに時間はかからない」
「そうなんですね。わかりました。それなら、明日挨拶させていただきます」
バルハルド様の提案に、私はゆっくりと頷いた。
無事に挨拶の日程が決まったため、私は安心する。これで気掛かりだったことを解決できそうだ。
432
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
結婚5年目のお飾り妻は、空のかなたに消えることにした
三崎こはく
恋愛
ラフィーナはカールトン家のお飾り妻だ。
書類上の夫であるジャンからは大量の仕事を押しつけられ、ジャンの愛人であるリリアからは見下され、つらい毎日を送っていた。
ある日、ラフィーナは森の中で傷ついたドラゴンの子どもを拾った。
屋敷に連れ帰って介抱すると、驚いたことにドラゴンは人の言葉をしゃべった。『俺の名前はギドだ!』
ギドとの出会いにより、ラフィーナの生活は少しずつ変わっていく――
※他サイトにも掲載
※女性向けHOT1位感謝!7/25完結しました!
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
9番と呼ばれていた妻は執着してくる夫に別れを告げる
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から言いたいことを言えずに、両親の望み通りにしてきた。
結婚だってそうだった。
良い娘、良い姉、良い公爵令嬢でいようと思っていた。
夫の9番目の妻だと知るまでは――
「他の妻たちの嫉妬が酷くてね。リリララのことは9番と呼んでいるんだ」
嫉妬する側妃の嫌がらせにうんざりしていただけに、ターズ様が側近にこう言っているのを聞いた時、私は良い妻であることをやめることにした。
※最後はさくっと終わっております。
※独特の異世界の世界観であり、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
旦那様から彼女が身籠る間の妻でいて欲しいと言われたのでそうします。
クロユキ
恋愛
「君には悪いけど、彼女が身籠る間の妻でいて欲しい」
平民育ちのセリーヌは母親と二人で住んでいた。
セリーヌは、毎日花売りをしていた…そんなセリーヌの前に毎日花を買う一人の貴族の男性がセリーヌに求婚した。
結婚後の初夜には夫は部屋には来なかった…屋敷内に夫はいるがセリーヌは会えないまま数日が経っていた。
夫から呼び出されたセリーヌは式を上げて久しぶりに夫の顔を見たが隣には知らない女性が一緒にいた。
セリーヌは、この時初めて夫から聞かされた。
夫には愛人がいた。
愛人が身籠ればセリーヌは離婚を言い渡される…
誤字脱字があります。更新が不定期ですが読んで貰えましたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう
音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。
幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。
事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。
しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。
己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。
修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる