旦那様の不手際は、私が頭を下げていたから許していただけていたことをご存知なかったのですか?

木山楽斗

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39.料理の師匠

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 パルセットさんは、ご厚意で夕食まで作ってくれた。
 一応私達も手伝った訳だが、私とエルガドは役に立ったとは言い難い。基本的にはパルセットさんが、残りはバルハルド様が作ったといえる。
 とはいえ、私もエルガドも学べることがあった。これからもどんどんと技術を吸収して、何れは自分だけで作ってみたいものである。

「パルセットさんはすごいですね。料理も掃除も、できて……この料理も、すごくおいしいです」
「お口にあったのなら何よりです」

 私の言葉に、パルセットさんは嬉しそうに答えた。
 彼女が作ってくれた料理は、どれも絶品である。

「以前、俺の料理について大したものではないと言ったが、その意味がわかっただろう」
「あ、いえ、それは……」

 バルハルド様の言葉に、私は思わず言い淀んでしまった。
 彼の料理ももちろんおしかったのだが、流石にこれと比べると劣っていると思ってしまう。
 ただ、当然のことながらそれを口に出すことは憚られる。しかしこうやって言い淀んでいる時点で、答えているのと同じだろうか。

「いや、答えにくい質問をしてしまったな。すまなかった。ただ、俺が言いたいのは、パルセットさんは俺の料理の師匠ということだ」
「ああ、そうなんですね……考えてみれば、当然ですか」
「バルハルド様は、呑み込みが早かったですね。でも、流石にこれを生業にしている以上、まだまだ負ける訳にはいきません」
「勝てるとは思っていませんよ」

 パルセットさんの言葉に、バルハルド様は苦笑いを浮かべていた。
 彼女から料理を学んだというなら、それは色々と納得できる。道理で、バルハルド様の料理がおいしい訳だ。
 ただ本人も言っている通り、師匠越えなどは難しいだろう。生活のために学んだバルハルド様と違って、相手はそういったことのプロなのだから。

「パルセットさんは、家政婦――メイドさんだったのですよね? 今は酒場を開いていると、バルハルド様からお聞きしましたが」
「ええ、そうですよ、エルガド様。ですから、掃除洗濯料理、これらに関しては自信があります」
「なるほど、そうなのですね。実は、僕もこれからはそういったことを学んでいかなければならない身でして……」
「そうですか。それなら私が、ご指導しましょうか?」
「ええ、どうかよろしくお願いします」

 パルセットさんは、エルガドの素性をなんとなく察しているようだった。
 そういった鋭さは、今までの経歴からのものだろうか。というかそういうことなら、私も彼女から色々と習った方が良さそうだ。エルガドと一緒に、教えてもらうとしよう。
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