旦那様の不手際は、私が頭を下げていたから許していただけていたことをご存知なかったのですか?

木山楽斗

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45.理解していても

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 私とバルハルド様は、エルヴァイン公爵家の屋敷を訪れていた。
 定例会が終わってから、公爵に招かれたのである。

「いや、リメリア嬢、今日は本当にありがとう。皆も喜んでいたよ」
「いえ、私はただいただけですから」
「バルハルド、君にも感謝する。皆、君には好感を抱いていたよ。流石はラルバルースの子孫が見定めた男だと」
「……そうですか」

 エルヴァイン公爵の言葉に、バルハルド様は無表情で答えていた。
 ラルバルースのファン達の言葉は、彼にとっては気に入らないものであるのだろう。それをなんとなく察した私は、苦笑いを浮かべてしまう。

「すまなかったな。あそこは君にとっては居心地が悪かったようだが……」
「……見抜かれていましたか」
「ああ、なんとなくではあるが、そうなのではないかと思っていた。申し訳ないことをしてしまったらしい」

 バルハルド様とエルヴァイン公爵のやり取りに、私は思わず二人を交互に見た。
 エルヴァイン公爵が、バルハルド様のことを気付いていたこと。それをバルハルド様が気付いていたこと。どちらも私にとっては、予想していないことだったのだ。

「いえ、このようなことでへそを曲げている自分が未熟者なだけです」
「いや、自らの妻がラルバルースの子孫としか見られていないという状況は、居心地も悪いだろう。妻に謎の親近感を抱いているという点も、君からしたら気に食わないか」
「……まだ妻ではありませんが、確かにエルヴァイン公爵の言う通りではあります。私にとって。あの場にいる者達は好ましいものではありませんから」
「ふむ、君の気持ちは充分に理解することができる。しかしだ、あのような場にリメリア嬢が立つということは、重要なことだ」
「理解しています」

 エルヴァイン公爵は、私のことをラルバルースの子孫としてだけ見ている訳ではない。
 それは私も、わかっていたことだ。そんな彼が私を招いたことにも、みんなを喜ばせたいという以外の意図があったことも、察していたことではある。

 今回私が招かれたのは恐らく、ルヴァーリ伯爵家の評価を高めるためだったのだろう。
 ヴォンドラ伯爵家との間で起こったことにより、ルヴァーリ伯爵家も多少の風評は被っている。それを覆せるように、有力者も多い定例会に呼び出したということだろう。

「バルハルド、私は君のことを立派な男だと思っているよ」
「いいえ、私はちっぽけな人間です。このようなことも許容することができない矮小な存在です」
「そんなことはないとも。この私が保証する」

 エルヴァイン公爵は、バルハルド様に太鼓判を教えてくれた。
 あの公爵が認めてくれているのだ。少しでもバルハルド様が、自信を持ってくれると良いのだが。
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