使用人の私を虐めていた子爵家の人々は、私が公爵家の隠し子だと知って怖がっているようです。

木山楽斗

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 使用人として働いている私に、珍しく客人があった。
 私は、ゲルビド子爵家に住み込みで働いている。そのため、私を訪ねるには、この屋敷に来るしかない。
 だが、平民がこの屋敷を訪ねて来ることはほぼないといえるだろう。平民にとって、貴族の屋敷に行くのは気が引ける。それが、このゲルビド家なら猶更だ。

 そんな事情もあって、私を訪ねて来たのは貴族だった。
 しかし、私は貴族に知り合いなどいない。だから、目の前にいる彼は、母や祖父母に関連する人なのだろう。

「さて、まずは自己紹介させてもらおうか。俺は、エルード・ラーファン。公爵家の人間だ」
「公爵家……?」

 目の前の人物の言葉に、私はとても驚いた。
 公爵家といえば、貴族の中でも最高の地位である。
 そんな人物が私を訪ねて来た。その事実は、とても衝撃的なことである。
 子爵家に借金をしていたことから、その同等くらいの地位の貴族が訪ねて来たのだと思っていた。まさか、母や祖父母は公爵家の人間と知り合いだったのだろうか。

「俺は遠回りというものは嫌いだ。故に、結論から言わせてもらう。お前は、ラーファン家の人間だ」
「え?」

 そんな私に対して、エルード様はすぐに結論をくれた。
 私が公爵家の人間。その一言に、私は思わず固まってしまう。

「ど、どういうことでしょうか……?」
「俺の祖父であり、先代の当主であるゴガンダ・ラーファンは、お前の母親と関係を持っていた。つまり、お前の父親は俺の祖父だ」
「なっ……」
「関係性だけでいえば、俺はお前にとって、甥となる訳だな……もっとも、俺の方が年上であるようだが」

 エルード様は、私に対して口の端を歪ませた。
 その表情は、少し自虐的な意味を含んでいる。
 恐らく、祖父が妻以外の女性と関係を持っており、年下の叔母が生まれていたことに対して、色々と思う所があるのだろう。

 その表情を見ていても、私は未だ実感することができない。
 私が、公爵家の人間だったなど信じられないのだ。そんなことは母も何も言っていなかったし、何かの間違いではないだろうか。

「私は、本当に公爵家の人間なのでしょうか?」
「疑っているのか?」
「だって、そんなことは聞いたことがありません。もし間違えだったとしたら……」
「間違いだと思うのか? この俺がここに来ている。その事実を考えれば、自ずと答えは出るはずだ」
「あっ……」

 エルード様の言葉に、私は気づいた。
 公爵家の彼が直々にここに来ている。それは、確信を持っていなければできない行動だろう。
 だから、私は本当に公爵家の人間なのだ。私の父親は、ゴガンダ様という人物なのである。

「公爵家の人間であるお前が、このような貴族の家で働く必要などない。先程、ここの当主にも話は通した。すぐに準備をしろ。ここからお前を連れ出してやる」
「でも、私には……」
「お前が気にするべきことはない。既に話は通したと言ったはずだ」
「は、はい……」

 当然のことではあるが、公爵家の人間が子爵家で使用人をしている訳にはいかない。
 どうやら、私はこの苦しい環境から抜け出せるようである。話も通してあるそうなので、本当に何も問題はないのだろう。
 こうして、私は突然判明した驚くべき事実によって、ゲルビド子爵家から解放されることになったのである。
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