使用人の私を虐めていた子爵家の人々は、私が公爵家の隠し子だと知って怖がっているようです。

木山楽斗

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 私は、エルード様に連れられて、とある部屋の前まで来ていた。
 その部屋が、ゴガンダ様がいる部屋であるらしい。

「さて、心の準備はできているか?」
「ええ、大丈夫です」

 私は、あまり緊張していなかった。
 そもそも、スレイナ様よりは気が楽なのだが、ここまで緊張していないのは彼女と話し合ったことが大きいだろう。
 私は、ゴガンダ様の最期の望みを叶えたいと思っている。そういうはっきりとした思いがあるから、緊張していないのだろう。

「……失礼します。エルードです。叔母上を連れてきました」
「……今、開けます」

 エルード様の言葉に答えたのは、若い男性の声だった。
 恐らく、これはゴガンダ様の声ではないだろう。使用人か誰かが、中にいるのかもしれない。
 もしかしたら、自分では対応できない程、ゴガンダ様は弱っているのだろうか。もう長くないと言われていたので、その可能性は充分ある。

「さて……」
「あっ……」

 戸を開けたのは、白衣に身を包んだ男性だった。
 見た目から、彼は医者であるように思える。そんな人物が傍についていなければならない。それは、ゴガンダ様が深刻な状態であるという証明だ。

 そんなゴガンダ様の姿が、目に入ってくる。
 ベッドの上にいる彼は、見るからに弱っている。本当に、限界が近いということが、その痛々しい姿からしっかりと伝わってきて、とても心が痛い。

「……」
「あっ……今、行きます」

 ゴガンダ様は、ゆっくりと手を上げて、私に来るように合図をしてきた。
 その重い動きを見ていると、とても辛くなってくる。だから、私はすぐに彼の傍まで寄っていった。

「君が……アルシアか」
「はい……アルシアです」
「そうか……彼女に、そっくりだな……」

 ゴガンダ様は、私の顔を見て少しだけ微笑んだ。
 私に対して、母の面影を見ているのだろう。親子であるのだから、私と母は当然似ている。きっと、彼もすぐにわかっただろう。

「ふむ……何を話すべきだろうか。色々と話したいことが、あったはずなのだがな……」
「あの、私……」
「手を……」
「え?」
「手を……握ってくれないだろうか?」
「は、はい……」

 私は、ゴガンダ様の言葉に応えてその手をしっかりと握った。
 その細い手も、彼がとても深刻な状態であることを示していた。痩せ細って、少し冷たい手は、またも私の心を打ってくる。

「会えて……よかった。今まで、色々と苦労したのだろう? すまなかったな……私が、もっと……」
「謝らないでください……もう、いいですから……」
「……君は、優しい子だな……ありがとう。私に会いに来てくれて……」
「い、いえ……」

 私の目からは、自然に涙が流れてきていた。
 どうして涙が流れてくるのかは、自分でもわからない。
 父親に会えて、嬉しいからなのだろうか。それとも、ゴガンダ様の現状が悲しいからなのだろうか。
 理由のわからない涙は、私の頬を伝っていく。それを拭うこともせず、私はゴガンダ様の手を両手で握る。

「会えて……会えて、嬉しい……よ。お父さん……」
「……」

 私の放った言葉に、ゴガンダ様は少し驚いていた。
 だが、すぐに笑みを浮かべてくれる。その優しい微笑みに、私も笑顔で返答するのだった。
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