私のために婚約破棄したと言われましても

木山楽斗

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8.一つの可能性

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 騎士からの報告、それはガルタン男爵家の屋敷の敷地内に賊が侵入したというものだった。
 ただ、王家が手配した騎士団は優秀である。私達に報告しに来た時には、既に鎮圧し終えていたようだ。

「首謀者に関して、賊はすぐに吐きました。大方の予想通り、リリアナ嬢に雇われたようです」
「……やはりそうでしたか。しかしリリアナ嬢は、随分と質の低い者達を雇ったものですね。襲撃が失敗したとはいえ、すぐに雇い主の名を明かすとは」

 騎士の言葉に、エリクス殿下はゆっくりと首を横に振った。
 家を出たリリアナ嬢には、質の高い暗殺者などを雇うことはできなかったということだろう。金さえあれば動く者達を雇ったということかもしれない。

 とはいえ、そういった者達の襲撃でもガルタン男爵家は落とせただろう。王家が騎士を配備していなければ、私達の命はなかったかもしれない。
 そういった点をわかっていて、リリアナ嬢が賊を雇った可能性もあるだろうか。

「犯罪者の質というものを言いたいものではありませんが、確かにリリアナ嬢が雇用した者達は質が低いといえます。その辺りのごろつき程度のものですね」
「ごろつき、ですか? しかし、ラナール伯爵家からリリアナ嬢が持ち出した金額はそれなりであるはずです。それらを渋ったというのは不可解ですね……」
「……リリアナ嬢に生活があったということではありませんか? 身を隠して暮らすためには、それなりの蓄えが必要です」
「なるほど、それはそうですか……しかし彼女の気質からして、なりふり構わずケイティア嬢を狙うと僕は踏んでいましたが」

 エリクス殿下は、騎士と議論を交わしていた。
 そのどちらの言い分も、私にとってはわからない訳ではない。リリアナ嬢の状況と彼女の気質、今回の場合そのどちらが重要になるのだろうか。

「……生活のためではなく、リリアナ嬢が他の目的のためにお金を渋っているということは考えられませんか?」
「ケイティア嬢? それはどういう意味ですか?」
「彼女が恨みを向ける可能性がある人が、私の他にもう一人います。もしかしたら彼女は、彼の方も狙っているのかもしれません」
「……チャルド伯爵令息、ですか」

 私は、ある可能性に思い至った。リリアナ嬢の激情が、チャルド様に向けられる。その可能性もあるのではないだろうか。
 彼女の彼に対する感情は、よくわかっていない。ただ少なくとも、チャルド様の婚約破棄に関してリリアナ嬢が怒りを覚えていたことだけは確かだ。
 その恨みが元婚約者に向くということも、ない訳ではないだろう。とりあえずチャルド様の安全を確かめた方が良いのかもしれない。
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