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28.同じ部屋でも

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「アグナヴァン様、せっかくですから同じ部屋にしましょう」
「なっ……フェルーナ殿、何を言っているのだ?」

 部屋の前で、私はアグナヴァン様にそう呼びかけた。
 その直後、戸が開き彼の顔が見えてくる。威厳ある第一王子は、とても驚いたような表情をしていた。こんな表情のアグナヴァン様は初めて見るかもしれない。

「自分が何を言っているのか、わかっているのか?」
「ええ、わかっています」
「いや、しかし……」

 アグナヴァン様は、明らかに狼狽えていた。
 私が言ったことが、余程信じられないようだ。
 そんな様子は、少しおかしかった。しかし、笑っている場合ではないだろう。私の意図を彼に伝えなければならない。

「アグナヴァン様は、私を妻にしたいと思っているのですよね?」
「ああ、それはもちろんそうだが……」
「あなたは、どのようなことがあっても私を妻にすると言っていました。そして、私はそれに乗ることにしたのです。なので、私も覚悟を決めたのです」
「か、覚悟……」

 私は、アグナヴァン様にゆっくりと伝えた。
 その説明に、彼は考えるような表情をする。少し頬が赤くなっている気もする。
 もちろん、私の言う覚悟にはそういった意味も含まれていない訳ではない。ただ、やはりこうやって実際に反応をされると、私の方も少し緊張してしまう。
 とはいえ、私も自分で言ったことを引っ込めるつもりはない。覚悟を決めて、この部屋へと踏み込むつもりだ。

「……わかった。それなら、俺もその覚悟に応えなければならないな」
「……はい」

 アグナヴァン様の言葉に、私は頷いた。
 その頷きに対して、彼は笑みを浮かべる。これでやっと話が終結したのだ。

「……話がまとまったようで何よりです。それでは、私はこれで失礼させてもらいますね」
「……待て」

 そこで、護衛はその場を去ろうとした。
 しかし、それはアグナヴァン様に止められる。彼の語気は、少し荒い。

「お前は、自分がやったことを反省しなければならない」
「は、話がまとまったのですから、いいのではないでしょうか?」
「……今が非常事態であることを忘れたのか? 本来ならば、こんなことをしている場合ではないのだ」
「しかしですね……」
「……お前の独断という訳でもないのだろう? これに関わった者達は、今回の件が終わったら少々灸を据えなければならないな」
「……はい」

 アグナヴァン様の言葉に、護衛は弱々しく頷いた。
 こうして、私は婚約者と同じ部屋に泊まることになったのである。
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