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38.行方不明の本

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 私とアグナヴァン様は、本を探していた。
 ホーネリアから話を聞いた私達は、人から魔力を奪い取る方法が記された本に、何か原因があると考えた。そのため、件の本を調べようと思ったのだ。

「……確かに、ここに置いてあったはずなのですが」

 しかし、王城の兵士は私達にそのように述べてきた。
 本は、証拠品として保管されていたらしいのだが、それが見当たらないそうなのだ。
 証拠品が残っていない。それは、普通に一大事である。

「誰かが盗みに入ったのではありませんか?」
「そんなまさか……」

 兵士は、周囲のものを見渡した。恐らく、他に何かなくなっていないか調べているのだろう。

「他に盗まれたものはないですね……いや、そもそも、ここに盗みに入るなんて、あり得ません。王城に侵入者を許すなんて」
「まあ、確かにそれはそうですよね……」

 普通に考えれば、本は誰かが持って行ったと考えるべきだ。
 だが、私はとある一つの考えに辿り着いていた。それは、私の部屋に本があったという過去の事実に関することだ。

「アグナヴァン様、もしかしたらあの本は動くのかもしれません」
「何?」
「ずっと変だと思っていたんです。私の部屋にあの本が、どうしてあったのか……ホーネリアは、この王城にあの日初めて来ました。その日に、私の部屋に入る隙はなかったはずです。それなら、本が自ら動いたという考えもできるのではないでしょうか?」
「それは……」

 アグナヴァン様は、私の予想に対して微妙な顔を浮かべていた。
 それは、当たり前のことである。本が動く。普通なら、そのような考えは思い浮かんでこないだろう。

「……状況的に、確かにあり得るのかもしれないな。王城に侵入者が入るのは難しい。だが、本が自ら動くなら問題はない」

 しばらく考えた後、アグナヴァン様はゆっくりとそう呟いた。
 この状況が、彼に私の普通ならばあり得ない考えを肯定させてくれたようだ。

「だが、それなら本はどこに行ったのだろうか?」
「目立つ場所にあるなら、誰かが発見するはずです。本が動いているなんて見たら、噂になるでしょう」
「つまり、どこかでじっとしているという訳か……」
「もしくは、ホーネリアの元に行っているかもしれません。彼女の精神をずっと汚染していた訳ですから、本にとっても彼女は心地いいものだったということでしょうし」
「なるほど……」

 とりあえず、私達は本の探索を再開することにした。
 本当に本が動いているかどうかはわからない。しかし、ここにない以上、他の場所を探すしかないだろう。
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