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16.休日の不審者

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 反射魔法の研究は、少しずつではあるが順調に進んでいった。
 二つに分かれたどちらのチームも、ある程度の成果は得られている。このままいけば、反射魔法の完成も近いかもしれない。
 そんな日々を送っていた私は、魔術師団に入ってから初めての休日を迎えていた。ただ私は、未だにベッドの上にいる。

「王都の探索をしてみたいという気持ちはあるけれど……」

 王都というものは、この国で最も発展している都市だ。そこをゆっくりと楽しみたいという気持ちは、当然ある。
 しかしながら、日々の研究によって溜まった疲れが私をベッドに縛り付けていた。正直、あまり出掛けたいというような気分ではない。

「まあ、魔術師団に入る前に少し探索したし……」

 フラウバッセンさんと話してから私が魔術師団に入るまで、少しだけ空白の期間があった。その期間は実質的に自由な時間だったため、ある程度王都は探索している。そのため、今日わざわざ出かける必要なんてないのかもしれない。

「……うん? あ、はい。どなたですか?」
「あ、ラナトゥーリ嬢、起きていますか?」
「あ、はい。起きていますけど……」

 寝ようとしていた私は、部屋の戸を叩く音に体を起こすことになった。
 この声は、アムティリアさんの声である。彼女も私と同じように休日なので寮にいるのは当然のことなのだが、一体私に何の用なのだろうか。

「実はラナトゥーリ嬢に、お客さんが来ているみたいなんです」
「お客さん?」
「ええ、なんというかラナトゥーリ嬢に会いたいと言っている人がいるみたいで……受付で少し揉めているんです」

 アムティリアさんは、少し疑念が混ざったような声で私にそう言ってきた。
 それは恐らく、私に会いたいと言っている人を怪しんでいるということなのだろう。
 当然のことながら、誰かが会いに来るとわかっているなら私もその旨を事前に伝えておく。つまりこれは突然の来訪だ。それは中々に怪しい。

「ありがとうございます、アムティリアさん。すぐに向かいます」
「やはり、心当たりはないのですか?」
「ええ、ありません。そもそも、王都に知り合いはいませんし……」
「それならやっぱり悪い人でしょうか?」
「その可能性は高いと思います。でも判断するのは訪ねてきた人を確かめてからです」
「知り合いという可能性もありますからね」

 私はアムティリアさんとともに受付に向かうことにした。
 アムティリアさんは、私が歩き始めると自然について来てくれた。恐らく、私のことを心配してくれているのだろう。そんな先輩の存在は、とても心強かった。

「ラナトゥーリ嬢、念のため隠れながら様子を見た方がいいと思います。顔を見たら何かしてくるかもしれませんから」
「ええ、心得ています」

 寮の一階まで下りてきた私は、アムティリアさんの言葉にゆっくりと頷く。
 廊下の曲がり角からなら、隠れながらでも受付の様子はしっかりと見える。という訳で私は、慎重に受付の様子を見てみる。

「……あっ」
「ラナトゥーリ嬢、どうかされましたか?」
「アムティリアさん、安心してください。彼は私の知り合いです」
「え? そうなんですか?」

 私の言葉に、アムティリアさんは驚いたような顔をしていた。
 それはそうだろう。受付にいるあの全身真っ黒なマントの男が知り合いなんて、私も本当はあまり言いたくはない。
 ただ事実として、その子は私の知り合いである。いやそれ所かもっと深い関係だ。

「弟なんです。彼は」
「弟?」
「ええ、まあ、私とは半分しか血は繋がっていませんが、ウェルリグル侯爵家の十八番目の子供で名前はルシウスといいます」
「お、弟さんでしたか。それなら安心ですね……」

 私の説明に、アムティリアさんは私とルシウスを何度か交互に見た。
 あの明らかに怪しい男の子に、彼女は若干引いているような気がする。それは当然だ。私だって、あの弟の格好には引いているのだから。
 しかしながら、ルシウスが私のことを訪ねてきたという事実はそれなりに嬉しいことではあった。便りがないのは元気の証拠というが、こうやって顔を見せてもらえると特に安心することができる。

「……ルシウス」
「……姉上!」

 私がゆっくりと出て行くと、ルシウスはそのマントを翻しながらゆっくりと礼をしてきた。
 一応、彼もウェルリグル侯爵家の一員なので礼儀作法に関してはしっかりしている。ただそれを差し引いてもやはり格好が不審だ。黒い服に黒いマント、マスクによって口元まで隠している彼は不審者としか言いようがない。
 ただ私との再会に目を輝かせてくれている弟のことが、私は昔から大好きだった。親しい家族と会えるのは、やはり喜ばしいものである。
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