4 / 46
4.提案と頼み
しおりを挟む
「そうでしたか……やはり、あなたの言葉も届きませんでしたか」
「ええ、何を言っても聞き入れてくれるとは思いませんでした」
「あれの視野は、どうやらかなり狭くなっているようですね……最早、誰にもあれは止められませんか」
アルガール侯爵は、ゆっくりと窓の外に視線を向けた。
彼はもう長くはない。限界なのだと改めて理解する。
ランドラ様の判断は、侯爵にとっては負担であるだろう。その体にきっと悪影響を与えているはずだ。
「安心して妻の元へ旅立てると思っていましたが、これでは会わせる顔がありませんな。一体、どこで育て方を間違えたのか……まあ、私もあれのことを色々と言える立場ではないということなのかもしれませんな」
アルガール侯爵は、早くに奥様を亡くした。
それから、男手一つでランドラ様を育ててきたのである。
再婚をする気はなかったらしい。彼は、亡き奥様を深く愛していたそうだ。
愛する気持ちが強いというのは、親子で似ている部分といえるだろう。だが、侯爵の背中を本当に見ていたら、もっと違う判断ができたのではないだろうか。
「……ああ、セリティア嬢。申し訳ありません、色々と考えてしまって」
「あ、いえ、大丈夫です」
「さて、申し訳ありませんが、あなたとの婚約はなかったことになるでしょう。いえ、なかったことにさせてください。この時点で……」
「この時点で?」
「ええ、私の目が黒い内は、ランドラを抑えておくことは不可能ではありません。流石に多少の負い目はあるでしょうから、私が死ぬまでは行動を起こさないかもしれません。」
力強く私の目を見ながら、アルガール侯爵はそう言ってきた。
どれだけ弱っていても、彼は侯爵なのだ。その視線が、私にそう思わせてくれた。
「ですが、結果は変わりません。私が死ねば、あれは婚約破棄してルーフィアという女性と結婚するでしょう。ですから、もうこの時点で婚約は完全に破棄させていただきます」
「……はい」
この時点で婚約を破棄するのは、私やオンラルト侯爵家のためなのだろう。
結果が変わらないのだから、これ以上私達を拘束するべきだはない。侯爵は、そう判断してくれたのだ。
「その上で、私は一つあなた方に提案したいと思っています。ラーゼル公爵の長男であるバルギードを知っていますか?」
「ええ、何度か会ったことはあると思います。深い関わりはありませんが……」
「私は、ラーゼル公爵とも親交がありました。最近、彼は悩んでいるようなのです。バルギードが婚約相手を中々決めないと」
「決めない?」
「ええ、バルギードは気難しい男なのです。何度か見合いもあったようですが、全て破談になったと聞いています」
「その方と私が?」
「ええ、オンラルト侯爵が望むなら、私の方から進言したいと思っています」
この話は恐らく、アルガール侯爵からのお詫びということなのだろう。
それは、ありがたい話ではある。もちろん、それが上手く行くかどうかは別の話ではあるが。
「ありがとうございます。まあ、その辺りの判断は父がするとは思いますが……」
「ええ……それから申し訳ありませんが、あなたには最期に頼みたいことがあるのです」
「なんですか?」
「預かっていてもらいたいのです。未来を……」
「未来を?」
その言葉の意味はわからないが、アルガール侯爵が何か重要なものを私に渡そうとしていることはわかった。
こうして私は、侯爵から大事なものを預かることになったのだった。
「ええ、何を言っても聞き入れてくれるとは思いませんでした」
「あれの視野は、どうやらかなり狭くなっているようですね……最早、誰にもあれは止められませんか」
アルガール侯爵は、ゆっくりと窓の外に視線を向けた。
彼はもう長くはない。限界なのだと改めて理解する。
ランドラ様の判断は、侯爵にとっては負担であるだろう。その体にきっと悪影響を与えているはずだ。
「安心して妻の元へ旅立てると思っていましたが、これでは会わせる顔がありませんな。一体、どこで育て方を間違えたのか……まあ、私もあれのことを色々と言える立場ではないということなのかもしれませんな」
アルガール侯爵は、早くに奥様を亡くした。
それから、男手一つでランドラ様を育ててきたのである。
再婚をする気はなかったらしい。彼は、亡き奥様を深く愛していたそうだ。
愛する気持ちが強いというのは、親子で似ている部分といえるだろう。だが、侯爵の背中を本当に見ていたら、もっと違う判断ができたのではないだろうか。
「……ああ、セリティア嬢。申し訳ありません、色々と考えてしまって」
「あ、いえ、大丈夫です」
「さて、申し訳ありませんが、あなたとの婚約はなかったことになるでしょう。いえ、なかったことにさせてください。この時点で……」
「この時点で?」
「ええ、私の目が黒い内は、ランドラを抑えておくことは不可能ではありません。流石に多少の負い目はあるでしょうから、私が死ぬまでは行動を起こさないかもしれません。」
力強く私の目を見ながら、アルガール侯爵はそう言ってきた。
どれだけ弱っていても、彼は侯爵なのだ。その視線が、私にそう思わせてくれた。
「ですが、結果は変わりません。私が死ねば、あれは婚約破棄してルーフィアという女性と結婚するでしょう。ですから、もうこの時点で婚約は完全に破棄させていただきます」
「……はい」
この時点で婚約を破棄するのは、私やオンラルト侯爵家のためなのだろう。
結果が変わらないのだから、これ以上私達を拘束するべきだはない。侯爵は、そう判断してくれたのだ。
「その上で、私は一つあなた方に提案したいと思っています。ラーゼル公爵の長男であるバルギードを知っていますか?」
「ええ、何度か会ったことはあると思います。深い関わりはありませんが……」
「私は、ラーゼル公爵とも親交がありました。最近、彼は悩んでいるようなのです。バルギードが婚約相手を中々決めないと」
「決めない?」
「ええ、バルギードは気難しい男なのです。何度か見合いもあったようですが、全て破談になったと聞いています」
「その方と私が?」
「ええ、オンラルト侯爵が望むなら、私の方から進言したいと思っています」
この話は恐らく、アルガール侯爵からのお詫びということなのだろう。
それは、ありがたい話ではある。もちろん、それが上手く行くかどうかは別の話ではあるが。
「ありがとうございます。まあ、その辺りの判断は父がするとは思いますが……」
「ええ……それから申し訳ありませんが、あなたには最期に頼みたいことがあるのです」
「なんですか?」
「預かっていてもらいたいのです。未来を……」
「未来を?」
その言葉の意味はわからないが、アルガール侯爵が何か重要なものを私に渡そうとしていることはわかった。
こうして私は、侯爵から大事なものを預かることになったのだった。
9
あなたにおすすめの小説
婚約破棄させたいですか? いやいや、私は愛されていますので、無理ですね。
百谷シカ
恋愛
私はリュシアン伯爵令嬢ヴィクトリヤ・ブリノヴァ。
半年前にエクトル伯爵令息ウスターシュ・マラチエと婚約した。
のだけど、ちょっと問題が……
「まあまあ、ヴィクトリヤ! 黄色のドレスなんて着るの!?」
「おかしいわよね、お母様!」
「黄色なんて駄目よ。ドレスはやっぱり菫色!」
「本当にこんな変わった方が婚約者なんて、ウスターシュもがっかりね!」
という具合に、めんどくさい家族が。
「本当にすまない、ヴィクトリヤ。君に迷惑はかけないように言うよ」
「よく、言い聞かせてね」
私たちは気が合うし、仲もいいんだけど……
「ウスターシュを洗脳したわね! 絶対に結婚はさせないわよ!!」
この婚約、どうなっちゃうの?
見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます
珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。
そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。
そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。
ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。
婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~
ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された
「理由はどういったことなのでしょうか?」
「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」
悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる
それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。
腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。
妹が私の婚約者を奪った癖に、返したいと言ってきたので断った
ルイス
恋愛
伯爵令嬢のファラ・イグリオは19歳の誕生日に侯爵との婚約が決定した。
昔からひたむきに続けていた貴族令嬢としての努力が報われた感じだ。
しかし突然、妹のシェリーによって奪われてしまう。
両親もシェリーを優先する始末で、ファラの婚約は解消されてしまった。
「お前はお姉さんなのだから、我慢できるだろう? お前なら他にも良い相手がきっと見つかるさ」
父親からの無常な一言にファラは愕然としてしまう。彼女は幼少の頃から自分の願いが聞き届けられた
ことなど1つもなかった。努力はきっと報われる……そう信じて頑張って来たが、今回の件で心が折れそうになっていた。
だが、ファラの努力を知っていた幼馴染の公爵令息に助けられることになる。妹のシェリーは侯爵との婚約が思っていたのと違うということで、返したいと言って来るが……はあ? もう遅いわよ。
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
【完結】愛人の子を育てろと言われた契約結婚の伯爵夫人、幼なじみに溺愛されて成り上がり、夫を追い出します
深山きらら
恋愛
政略結婚でレンフォード伯爵家に嫁いだセシリア。しかし初夜、夫のルパートから「君を愛するつもりはない」と告げられる。さらに義母から残酷な命令が。「愛人ロザリンドの子を、あなたの子として育てなさい」。屈辱に耐える日々の中、偶然再会した幼なじみの商人リオンが、セシリアの才能を信じて事業を支援してくれる。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる