醜い傷ありと蔑まれてきた私の顔に刻まれていたのは、選ばれし者の証である聖痕でした。今更、態度を改められても許せません。

木山楽斗

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 私は、ウェリリアお姉様と言い争っていた。
 彼女に対して言い返すのは、初めての体験である。思っていたより、気分は晴れやかだ。少なくとも、何も言い返さないよりはすっきりする。

「ウェリリア、もうやめなさい」
「え? お姉様?」
「え?」

 そこで、今まで何も言わなかったイルシャナお姉様が口を開いた。
 その発言が、ウェリリアお姉様と止める発言だったため、私も言われた彼女自身もかなり驚いていた。
 基本的に、イルシャナお姉様はウェリリアお姉様と同じ陣営である。そんな彼女なら、ウェリリアお姉様に話を合わせると思っていた。だから、彼女の言葉が意外だったのである。

「まさか、あなたが聖痕などと呼ばれるものを有する選ばれし者だったなんてね。本当に、あなたは恵まれているわ」
「恵まれている?」
「気づいていないのね……そういう所が、嫌いなのよ」

 イルシャナお姉様は、私に対して冷静にそう言ってきた。
 今までの彼女から考えると、これは珍しいことである。もっと不快な感情を押し出してくるのが、いつもの彼女なのだが、今日は違うらしい。
 しかし、私が恵まれているとはどういうことだろうか。確かに、聖痕が刻まれていることは恵まれているのかもしれないが、それまで私は恵まれてなどいなかったはずである。

「その顔の痣で、あなたは苦労したと思っているのよね? でも、本当にそうなの? あなたはお兄様やお母様に守られていたじゃない」
「それは……」
「お兄様もお母様も、あなたばかり……それなのに、あなたは自分を不幸だと思って、不幸だと思い込んで……そういう態度が、気に入らなかったのよ」

 イルシャナお姉様の言葉は、少しだけ心に響いてきた。
 確かに、私はお兄様やお母様から守られていた。敵が多い私を、二人が特別気遣ってくれていたことは間違いない。
 そのことで、お姉様達は嫉妬していた。その感情が、理解できない訳ではない。

「それでも、例え、そういう理由があっても、私に攻撃していい理由にはならないはずです」
「なっ……」
「勝手に嫉妬して、勝手に憎しんで、それを正当であるかのように言わないでください。あなた達がやったことは、どんな理由があっても最低のことです」

 しかし、私はそれでも言い返した。
 どんな理由があっても、私は自分への行いを許せない。彼女が言っているのは、勝手な理由だ。それで、やったことが正当化される訳ではない。

「……まあ、いいわ。どうせ、あなたには理解できないもの……行くわよ。ウェリリア」
「は、はい……」

 それだけ言って、二人は去っていった。
 結局、彼女達と私達は平行線なのだろう。そう簡単に、分かり合うことはできない。長年の行いが、私達の間に決定的な溝を作っているのだ。
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