上 下
14 / 38

14.好みの女性は

しおりを挟む
「……そもそもの話、できれば父親の恋愛遍歴を娘に語ったりしないでもらいたいものなんだが」
「お父様、もう一つ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「む? どうかしたのかい?」
「お父様は……女性のどんな所にときめくんですか?」
「うむっ?」

 私の質問に、お父様はまた唸った。
 考えた結果の質問だったが、そんなに変な質問だっただろうか。
 お父様の好みというのは、結構重要だと思っている。それが一致すれば、お母様とそういう関係になれるかもしれない。

「なるほど……ファルミルも、もうそういう事柄に興味を持つ年頃ということか」
「え? なんですか?」
「いや、ファルミル、本当にそんなことが聞きたいのかい?」
「はい、聞きたいです」
「中々、難しい質問だね……」

 お父様は苦笑いをしながら、考えるような仕草をした。
 一応、答えてくれるつもりらしい。
 考えてみれば、お父様もお母様も基本的に私の質問には答えてくれる。親として娘の質問にはできる限り答えようとしてくれているということだろうか。

「強いて言うなら、僕は女性の気高さに惹かれることがあるかな」
「気高さ、ですか?」
「何といえばいいんだろうね……かっこいい女性が好きだといえるかな?」
「かっこいい女性ですか……」

 お父様の答えに、私は思わず笑ってしまう。
 成熟した男性であるというのに、今のお父様はまるで少年のようだ。失礼かもしれないが、それが微笑ましいと思ってしまった。
 ゲームの主人公は、確かにかっこいい女性だったような気がする。主人公なのだから当然かもしれないが、作中でもそれなりに見せ場があり、そこではかっこよかった。
 とはいえ、かっこいい女性というならお母様もそうではないだろうか。いつも堂々としているし、貴族としての立ち振る舞いは鮮やかだ。

「……参考までに聞かせてもらいたいのだが、ファルミルはどうなんだい? あまりそういった機会はなかったかもしれないが、例えばかっこいいと思えるような男の子はいたりするのかい?」
「あ、私がかっこいいと思っている男性は、お父様です」
「なっ……」

 私の言葉に、お父様は目を見開いた。
 その直後に、お父様は満面の笑みを浮かべる。恐らく、喜んでくれているのだろう。

「……そういってもらえるのは嬉しいよ。僕にはもったいない評価だ」
「もったいない? そんなことはないと思いますけど……」
「僕よりもかっこいい人は、この世界にたくさんいると思うよ。できれば、ファルミルにはそういう人を見つけて欲しいな。強く気高い人がいい。そういう人でなければ、娘を安心して任せられない」
「お父様……」

 お父様は、ゆっくりと私の頬を撫でてくれる。
 その視線からは慈しみを感じる。私のことを大切に思ってくれていることが伝わってきて、心が温かい。
 ただ、同時にその視線は少し寂しそうだ。まだ先の話のはずなのに、私が離れていくことに寂しさを感じているのだろうか。

「……男性の好みも同じなんですね?」
「む……まあ、確かに言われてみれば、尊敬できる男性もそういう人になるね。どうやらこれは異性に対する思いというよりも、単純に人間として好ましいかどうかということのようだ」

 私とお父様は笑い合った。
 私がお父様よりもかっこいい人と巡り合えるかはわからない。ただ、どちらにしてもそれは未来の話だ。
 今、私が気になっているのはお父様とお母様のことである。まずはその問題を解決して、これからのことを考えたい所だ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

突然の契約結婚は……楽、でした。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:86,600pt お気に入り:2,464

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:31,644pt お気に入り:35,206

処理中です...