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33.認める苦しみ

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「それで、お母様はラムリアさんと会うことにしたんですか?」
「ええ、あなたのことも彼女に紹介したいと思っているわ。構わないかしら?」
「はい、それはもちろんです」

 お母様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 かつてプレイした乙女ゲームの主人公であるラムリアが、アルナント公爵家を訪ねてくるという事実に、私は心を躍らせていた。
 やはり、主人公に会えるというのは嬉しい。成長した彼女は、どのような人間になっているのだろうか。
 ただ同時に不安があった。お母様が不安そうだからだ。やはり、彼女と会うことはお母様にとって辛いことなのかもしれない。

「お母様、大丈夫ですか?」
「え?」
「なんだか、不安そうですけど……」
「……駄目ね、私は」

 お母様は、私の頭をゆっくりと撫でてくれた。その表情は、とても穏やかだ。
 撫でてもらえるのは嬉しい。そう思いながら、私は考えていた。もしかしたら、こうして私の頭を撫でる行為はお母様にとっても安心できる行為なのかもしれないと。

「お母さんはね、そのラムリアさんという人にひどいことをしてしまったの」
「……はい、それは以前に聞きました」
「そうだったわね……まあ、自分の非を認めて謝るというのは、それなりに苦しいことなのよ。悪いのは私だから、そんなことは言ってはならないだけれどね」

 お母様は、かつて犯した罪を認めて、それを謝ろうとしている。それはきっと、とても勇気がいることだろう。
 だが、それを立派なことだと考えるべきではない。そもそも、ひどいことをしたお母様が悪いのだから、謝るのが当たり前。
 そうやって割り切れる程、私は大人ではなかった。お母様は、それでも立派なことをしているとそう思ってしまう。

「……お母様は、悪いことをしたのかもしれません。それは、駄目だったと思います」
「……ええ、その通りだわ」
「でも、それを反省して謝ろうとしていることは、反省せず謝らない人よりは立派だと思います」
「……ありがとう、ファルミル」

 私がお母様に言えるのは、この程度でしかない。もっと色々な言葉をかけられると思ったが、上手く言葉が出てこなかった。
 それでも、お母様は笑顔を浮かべてくれる。私の拙い言葉でも、安心してくれる。少し悔しいが、それが嬉しかった。

「あなたは、本当に賢い子ね……」
「そ、そうですか?」
「ええ、本当に立派な子に育ってくれている。ファルクス様に似たのかしらね」
「……お母様にも似ていると思います」
「そう言ってもらえると嬉しいわね」

 お母様は、私をそっと抱きしめる。私は、お母様にその身を預ける。
 今のお母様は、昔のお母様とは違う。そんなお母様の娘だから、私はこういう人間になった。私がいくらそう言っても、お母様は納得してくれないだろう。
 お母様がそう言えるようになるとしたら、それは今回の会合が終わってからなのだろう。過去と決着をつけることで、お母様はようやく未来に進めるということなのかもしれない。
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