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「……おい? 何をしている? どうしてついてこっ……」

 私の方を振り返ったドルナス様は、言葉を口に出そうとして固まった。
 その理由は、明確であるだろう。彼の私を引っ張っていこうとした手は、確かにまだ私の腕を掴んでいる。
 それなのにドルナス様は、私の遥か前方にいる。それはつまり、彼の腕と体が引き離されているということを意味しているのだ。

「……あああああっ、ああっ!」

 動揺が押し寄せてきたのか、ドルナス様は声にならない声をあげていた。
 それは当然のことであるだろう。自分の腕が千切れているのだ。動揺しない訳がない。

 ただ、他に声をあげる者はいなかった。
 それは違和感を覚えていたからだろう。彼の手は確かに体から離れているというのに、血の一つも流れてこない。

「腕がっ! 腕があああああっ……!」
「先程からうるさい奴だな……」
「な、何っ……」

 騒ぐドルナス様に対して、酒場にいた一人の男が声をかけた。
 その人物の顔は、フードをしていて見えない。ただ、聞き覚えのない声だ。この地域の人なら、私にもわかるはずだし、恐らく旅人であるだろう。
 ただ、少しだけ違和感があった。彼の所作はその服装に似合わず、どこか気品に溢れている。

「少しは、静かにしたらどうだ?」
「な、なんだと……」

 男性に対して、ドルナス様は残っている方の腕の拳を握り締めた。今にも、殴り掛かりそうな雰囲気だ。
 ただ彼は、再び固まることになった。彼の拳が、ゆっくりと地面に落ちていったからだ。

「ほごっ?」
「……」

 よく見てみると、男は腰に剣を携えている。つまり、あれで切ったということだろうか。
 しかし私は、彼がその剣を抜いた所を見ていない。気付かない程に一瞬の間に、剣を抜いたとでもいうのだろうか。
 あるいは、魔法の類かもしれない。この世界にある不思議な術なら、この奇妙な状況も実現することができるのではないだろうか。

「な、なんで僕の手がっ……ああっ? な、なんで痛くないんだ?」

 ドルナス様の手からは、血は流れていない。本人の弁から、痛みもないようだ。
 それならやはり、この状況は魔法である気がする。少なくとも私が知っている魔法ではないが、もしかしたらそういう魔法もあるのかもしれない。

「安心しろ。治癒魔法をかければ、腕はすぐに繋がる。そのように切ったからな」
「……だ、誰か、早く治癒魔法を!」

 ドルナス様の言葉に応えるように、彼の取り巻きの一人が彼に治癒魔法をかけ始めた。
 するとその拳は、いとも簡単に繋がった。高度な治癒魔法でも、欠損した拳をここまで簡単に戻すことはできないはずだ。
 そんなことを考えている内に、私の腕を握っていた方の手はなくなっていた。彼の取り巻きが、それを取ってドルナス様の治療を行っているようだ。
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