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20.我慢して
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「ああそういえば、ラナーシャは今回のことをマグナス様に話していなかったのよね?」
「え? ああ、そうですね。はい。マグナス様には、今回のことは話していません」
褒められて照れ臭かったため、私は話題を転換した。
しかしそれは、普通に気になっていたことでもある。ラナーシャがマグナス様に伝えていなかったということ。それは私にとって、結構意外なことだったのだ。
「彼にも一報入れているものかと思ったけれど……」
「その、お兄様にあまり心配をかけても仕方ないと思ってしまって……」
「……気を遣ったということ?」
「そういうことではありません。アラティア様に相談できましたし、必要ないと思ったんです」
私の質問に、ラナーシャは少し躊躇ったような表情を見せた。
それは、質問が図星だったことを表しているような気がする。つまり彼女は、やはりマグナス様に気を遣ったのだろう。
あまり心配をかけたくないという気持ちも、頼り過ぎたくないという気持ちも理解はできる。
ただ彼女の場合、少し心配な点がある。実家にいた時も、そうやって気遣って相談したことがあったのではないだろうか。私の頭に、嫌な考えが過る。
「……ラナーシャ、あなたは今までもそうやって気を遣ったことがあったの?」
「……」
「あったのね? それも実家で……」
「……はい」
遠慮がちに頷くラナーシャの表情は暗い。それは気を遣った結果、何かしらの被害を被ったからなのだろう。
彼女の母、ドルピード伯爵夫人はかなり悪辣な人物である。故に被害は、おぞましいものであったはずだ。
「ラナーシャ、今回の場合はそれで良かったかもしれないけれど……いざという時は、助けを求めないと駄目よ?」
「……わかっています。でも、どうしてもお兄様方に迷惑をかけたくないと思ってしまって」
「気持ちはわかるわ。だけど、それは良くないことよ。自分自身を追い詰めるだけだもの」
「そうなのでしょうか……」
「ええ、そうなのよ」
辛い環境にありながら、ラナーシャはそれでも我慢していたのだろう。
マグナス様やもう一人の兄に迷惑をかけたくない。その一心で、二人に言わなかったことがあるのだ。
ただそれは、相談しなければならないことである。彼女の場合は、そうしなければならない。なぜなら我慢した結果、最悪の結果になる可能性もあるから。
「不思議です。やはりアラティア様の言葉には、力があるのですね……」
「……いえ、そんなに口が上手い訳ではないけれど」
「………………一つ、今でもずっと抱えていることがあるんです」
「え?」
ラナーシャは、かなり間を置いてから言葉を発した。
その言葉に私は驚く。彼女の表情には陰りがある。そんな彼女が抱えていることは、何か重大な秘密であるような気がする。
「でもこれは、ドルピード伯爵家を揺るがすことです。だから、お兄様達には言っていませんでした。ただこれはきっと、重大なことです」
「……それは一体?」
「私の実の母は……殺されたんです」
「殺された?」
私は、ラナーシャの顔を真っ直ぐに見つめていた。
彼女の瞳の中には、暗い感情が見える。それは私をずっと支えているものと、同じ感情であるような気がした。
「え? ああ、そうですね。はい。マグナス様には、今回のことは話していません」
褒められて照れ臭かったため、私は話題を転換した。
しかしそれは、普通に気になっていたことでもある。ラナーシャがマグナス様に伝えていなかったということ。それは私にとって、結構意外なことだったのだ。
「彼にも一報入れているものかと思ったけれど……」
「その、お兄様にあまり心配をかけても仕方ないと思ってしまって……」
「……気を遣ったということ?」
「そういうことではありません。アラティア様に相談できましたし、必要ないと思ったんです」
私の質問に、ラナーシャは少し躊躇ったような表情を見せた。
それは、質問が図星だったことを表しているような気がする。つまり彼女は、やはりマグナス様に気を遣ったのだろう。
あまり心配をかけたくないという気持ちも、頼り過ぎたくないという気持ちも理解はできる。
ただ彼女の場合、少し心配な点がある。実家にいた時も、そうやって気遣って相談したことがあったのではないだろうか。私の頭に、嫌な考えが過る。
「……ラナーシャ、あなたは今までもそうやって気を遣ったことがあったの?」
「……」
「あったのね? それも実家で……」
「……はい」
遠慮がちに頷くラナーシャの表情は暗い。それは気を遣った結果、何かしらの被害を被ったからなのだろう。
彼女の母、ドルピード伯爵夫人はかなり悪辣な人物である。故に被害は、おぞましいものであったはずだ。
「ラナーシャ、今回の場合はそれで良かったかもしれないけれど……いざという時は、助けを求めないと駄目よ?」
「……わかっています。でも、どうしてもお兄様方に迷惑をかけたくないと思ってしまって」
「気持ちはわかるわ。だけど、それは良くないことよ。自分自身を追い詰めるだけだもの」
「そうなのでしょうか……」
「ええ、そうなのよ」
辛い環境にありながら、ラナーシャはそれでも我慢していたのだろう。
マグナス様やもう一人の兄に迷惑をかけたくない。その一心で、二人に言わなかったことがあるのだ。
ただそれは、相談しなければならないことである。彼女の場合は、そうしなければならない。なぜなら我慢した結果、最悪の結果になる可能性もあるから。
「不思議です。やはりアラティア様の言葉には、力があるのですね……」
「……いえ、そんなに口が上手い訳ではないけれど」
「………………一つ、今でもずっと抱えていることがあるんです」
「え?」
ラナーシャは、かなり間を置いてから言葉を発した。
その言葉に私は驚く。彼女の表情には陰りがある。そんな彼女が抱えていることは、何か重大な秘密であるような気がする。
「でもこれは、ドルピード伯爵家を揺るがすことです。だから、お兄様達には言っていませんでした。ただこれはきっと、重大なことです」
「……それは一体?」
「私の実の母は……殺されたんです」
「殺された?」
私は、ラナーシャの顔を真っ直ぐに見つめていた。
彼女の瞳の中には、暗い感情が見える。それは私をずっと支えているものと、同じ感情であるような気がした。
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