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私は、王城からラーファン家の屋敷に帰ってきました。
やっと家に帰れて、一安心……したいところなのですが、まだ色々と問題はあります。
なぜなら、この屋敷にはとても厄介な人がいるからです。その人に、聖女をやめた経緯を説明すると、絶対に大変なことになるでしょう。
という訳で、その厄介な人に対抗できる人に先に話を通しておくことにします。その人は優しい人ですから、説得すればきっと力になってくれるはずです。
「失礼します……シャルリナです」
「あ、シャルリナ……」
その人の部屋の戸を叩くと、中からその人の声が聞こえてきました。
部屋にいてくれて、本当によかったと思います。もし別の場所にいた場合、先に厄介な人と出会う可能性がありましたから。
「入ってもいいですか?」
「あ、えっと……ちょっと待って。その……」
「うん?」
聞こえてきた声に、私は少し違和感を覚えました。
この入らない方がいいと聞こえなくもない声色は、何かを私に伝えようとしているような気がしてしまいます。
よく考えてみれば、厄介な人は私の思考を読めるような人です。ということは、私がこの部屋を訪ねることも予測しているのではないでしょうか?
「ふん!」
「くおおっ!」
逃げなければならない。そう思った瞬間、私の目の前ドアが開かれてしまいました。
現れたのは、エルード・ラーファン。私の兄です。
その奥で困惑しているのは、一人の女性。その人が、私が頼ろうとしていたアルシアという人です。
アルシアお姉様は、お兄様の婚約者です。色々と関係は複雑ですが、端的に言えば、兄夫婦ということですね。
「お、お兄様……ここにいるんですか?」
「お前こそ、どうしてここに来た?」
「ど、どうして……? えっと……ほら、一番会いたい人じゃないですか」
「本当にそれだけの理由か?」
「そうですよぉ……」
この人がここに来ることを予測できなかったのは、私の不覚です。
聖女をやめられて浮かれ過ぎて、そういう読み合いを忘れていました。最近は、この人と関わることがなかったこともこの油断の要因でしょう。少し前までの私なら、このくらいのことは予測できたはずです。
聖女をやめたこと自体は、既にお兄様に伝わっていました。ゆっくりと帰ってきたので、先にその事実だけは伝えていたのです。
そこから、こうなることは予測できました。こんなことなら、事前に伝えておかないべきだったかもしれません。もっとも、そうしていたら、もっと怒られたでしょう。風の噂で伝わりますし、帰れば事情を説明せざるを得ませんから。
「まさかとは思うが、アルシアを味方につけるためにここに来たという訳ではないだろうな?」
「え? まさか、そんなことがある訳ないじゃないですか?」
「ほう? ならば、場所を変えて、二人きりで話すとするか。お前に何があったか、ゆっくりと話し合おうではないか」
「こふっ……」
お兄様と二人きりで話すなんて、絶対に嫌です。
ですが、お姉様を味方につけることを私は既に否定してしまっています。
だから、逃げ道が封じられています。お兄様と話し合うしかないでしょう。
やっと家に帰れて、一安心……したいところなのですが、まだ色々と問題はあります。
なぜなら、この屋敷にはとても厄介な人がいるからです。その人に、聖女をやめた経緯を説明すると、絶対に大変なことになるでしょう。
という訳で、その厄介な人に対抗できる人に先に話を通しておくことにします。その人は優しい人ですから、説得すればきっと力になってくれるはずです。
「失礼します……シャルリナです」
「あ、シャルリナ……」
その人の部屋の戸を叩くと、中からその人の声が聞こえてきました。
部屋にいてくれて、本当によかったと思います。もし別の場所にいた場合、先に厄介な人と出会う可能性がありましたから。
「入ってもいいですか?」
「あ、えっと……ちょっと待って。その……」
「うん?」
聞こえてきた声に、私は少し違和感を覚えました。
この入らない方がいいと聞こえなくもない声色は、何かを私に伝えようとしているような気がしてしまいます。
よく考えてみれば、厄介な人は私の思考を読めるような人です。ということは、私がこの部屋を訪ねることも予測しているのではないでしょうか?
「ふん!」
「くおおっ!」
逃げなければならない。そう思った瞬間、私の目の前ドアが開かれてしまいました。
現れたのは、エルード・ラーファン。私の兄です。
その奥で困惑しているのは、一人の女性。その人が、私が頼ろうとしていたアルシアという人です。
アルシアお姉様は、お兄様の婚約者です。色々と関係は複雑ですが、端的に言えば、兄夫婦ということですね。
「お、お兄様……ここにいるんですか?」
「お前こそ、どうしてここに来た?」
「ど、どうして……? えっと……ほら、一番会いたい人じゃないですか」
「本当にそれだけの理由か?」
「そうですよぉ……」
この人がここに来ることを予測できなかったのは、私の不覚です。
聖女をやめられて浮かれ過ぎて、そういう読み合いを忘れていました。最近は、この人と関わることがなかったこともこの油断の要因でしょう。少し前までの私なら、このくらいのことは予測できたはずです。
聖女をやめたこと自体は、既にお兄様に伝わっていました。ゆっくりと帰ってきたので、先にその事実だけは伝えていたのです。
そこから、こうなることは予測できました。こんなことなら、事前に伝えておかないべきだったかもしれません。もっとも、そうしていたら、もっと怒られたでしょう。風の噂で伝わりますし、帰れば事情を説明せざるを得ませんから。
「まさかとは思うが、アルシアを味方につけるためにここに来たという訳ではないだろうな?」
「え? まさか、そんなことがある訳ないじゃないですか?」
「ほう? ならば、場所を変えて、二人きりで話すとするか。お前に何があったか、ゆっくりと話し合おうではないか」
「こふっ……」
お兄様と二人きりで話すなんて、絶対に嫌です。
ですが、お姉様を味方につけることを私は既に否定してしまっています。
だから、逃げ道が封じられています。お兄様と話し合うしかないでしょう。
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