そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。

木山楽斗

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 私は、お兄様の執務室でお兄様と二人きりで話すことになりました。
 議題は当然、私が何故聖女をやめたのかということです。
 もちろん、正直に言えば絶対に怒られます。という訳で、どうにかして誤魔化さなければなりません。

「さて、どうしてお前は聖女をやめたのだ?」
「えっと……実は、聖女は激務で、もう耐えられないと思ったんです」
「ほう……」

 私は、悲しい演技をしながら、お兄様に訴えかけた。
 ここで言っていることは、別にそこまで真実から遠いことではありません。実際に、激務だったし、耐えられないと思ったことは事実です。
 まあ、面倒だからとか、朝起きるのが辛いとか、そういう細かい理由はありますが、今口に出していることに偽りはありません。

「……実は、面倒だと思ったのではないか?」
「いえ、そんなことはありませんよ」
「朝起きるのが辛いだとか、祈りに意味がないと思っただとか、そういう理由ではないのか?」
「お兄様、いくら私でもそんなことは思いませんよ」

 お兄様は、私の全てを見抜いていました。
 長い付き合いですから、私のことをよく知っていますね。
 でも、ここは堂々と嘘をつかせてもらいます。これを見抜かれると、怒られてしまいますからね。

「そうか……まあ、それはそれで構わない。お前がそういう選択をするというなら、俺もそこまで何か言うつもりはない」
「あれ? そうなんですか?」

 意外なことに、お兄様はあまり怒っていませんでした。
 というか、聖女をやめたことについて、あまり重要視していないような感じです。
 なんだ、お兄様も意外と話が分かるではありませんか。もっときつい人かと思っていましたが、ほんの少しだけ見直しましたよ。

「さて、それでは本題に移らせてもらう。お前の今後に関することだ」
「え? 今後?」
「お前は、聖女になるから、婚約関係の話は後にしてもらいたいと言っただろう。聖女をやめたなら、当然その話に移らせてもらう」
「ええっ!?」

 お兄様の言葉に、私は驚いてしまいました。
 そういえば、私が聖女になったのはそういう事情だったからでした。すっかり頭から抜けていましたが、帰ってきたらその問題と向き合わなけばならなかったのです。
 正直、婚約なんて面倒なことは避けたいと思っています。ここは、なんとか話題をそらせませんかね?

「えっと……お兄様、最近お姉様とはどうですか?」
「……聖女をやめたのだ。当然、覚悟はしていただろう?」
「仲良くしていますか? あ、部屋を訪ねていたのですから、仲良くしているということですよね?」
「理解していなかったのか?」
「うぐっ……」

 お兄様は、話題をそらすことを許してくれません。
 これは、しばらくこの話に付き合うしかないようです。
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