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あの日から(アルーグ視点)
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俺は、自ら足を運んであの人とその娘が暮らす村まで来ていた。
とりあえず、物陰から様子を窺うことにする。彼女を見るのは、八年振りくらいだろうか。その事実に震えながらも、俺はなんとか二人の方に目を向ける。
「……」
俺は、はっきりとあの人を視界に捉えた。数年振りではあるが、彼女の顔はそれ程変わっていない。まず思ったのは、そんなくだらないことだった。
次に目に入ってきたのは、彼女によく似た少女だった。まず間違いなく、その子があの人の娘なのだろう。
二人は、畑仕事をしながら会話を交わしていた。
それは、なんてことのない会話だ。親子であるなら、しても当然であるという他愛のない会話である。
「……ふっ」
そんな会話を交わしながら平和に暮らす二人に、俺は自らの考えが間違っていないことを理解した。
あの二人を貴族の世界に連れて来てどうなるというのだろうか。俺は、改めてそれを認識していた。
「……なんとも、長い戦いだったものだ」
そして、同時に俺は彼女への思いに決着をつけられた。
あの日、突然いなくなってしまった彼女をもう一度見て、その笑顔を見ることによって、安心できたのである。
どうやら、これで決着をつけることができそうだ。あの日止まってしまった俺の時間は、今もう一度動き出そうとしている。
「さて……俺もそろそろ腹を括るとするか」
俺が見ていることに気づいたのか、彼女はこちらにゆっくりと歩いて来ていた。
その姿を見ながら、俺は気を引き締める。はっきりともう大丈夫だとわかった。俺は、やっと己の過去に終止符を打つことができたのだ。
◇◇◇
彼女と会話を交わしてから、俺は馬車に乗っていた。ラーデイン公爵家に、帰るためである。
結局、俺は彼女達を公爵家に連れ戻さないことを選択した。それは、間違った選択ではないと思っている。
今回の件は、俺の胸に秘めておくことにしよう。何も起こらなければ、墓場まで持っていくべきだろう。
「……」
母上に対して、俺は不義理を働いている。それについては、申し訳ない気持ちしかない。
だが、それでも俺は二つの家族の平和のためにも、この秘密を握り潰すつもりだ。
それは、俺のエゴなのだろう。しかし、それでもいい。各々の日常が守れるのなら、俺はどんな裁きでも受けよう。
「さらばだ、セリネア」
最後に、俺は村の方を見ながらそう呟いた。
これで全てが終わりだ。俺達と彼女達は、もう交わることはない。
そう思いながら、俺は村の方を見るのをやめる。その時には、不思議と晴れやかな気分だった。
とりあえず、物陰から様子を窺うことにする。彼女を見るのは、八年振りくらいだろうか。その事実に震えながらも、俺はなんとか二人の方に目を向ける。
「……」
俺は、はっきりとあの人を視界に捉えた。数年振りではあるが、彼女の顔はそれ程変わっていない。まず思ったのは、そんなくだらないことだった。
次に目に入ってきたのは、彼女によく似た少女だった。まず間違いなく、その子があの人の娘なのだろう。
二人は、畑仕事をしながら会話を交わしていた。
それは、なんてことのない会話だ。親子であるなら、しても当然であるという他愛のない会話である。
「……ふっ」
そんな会話を交わしながら平和に暮らす二人に、俺は自らの考えが間違っていないことを理解した。
あの二人を貴族の世界に連れて来てどうなるというのだろうか。俺は、改めてそれを認識していた。
「……なんとも、長い戦いだったものだ」
そして、同時に俺は彼女への思いに決着をつけられた。
あの日、突然いなくなってしまった彼女をもう一度見て、その笑顔を見ることによって、安心できたのである。
どうやら、これで決着をつけることができそうだ。あの日止まってしまった俺の時間は、今もう一度動き出そうとしている。
「さて……俺もそろそろ腹を括るとするか」
俺が見ていることに気づいたのか、彼女はこちらにゆっくりと歩いて来ていた。
その姿を見ながら、俺は気を引き締める。はっきりともう大丈夫だとわかった。俺は、やっと己の過去に終止符を打つことができたのだ。
◇◇◇
彼女と会話を交わしてから、俺は馬車に乗っていた。ラーデイン公爵家に、帰るためである。
結局、俺は彼女達を公爵家に連れ戻さないことを選択した。それは、間違った選択ではないと思っている。
今回の件は、俺の胸に秘めておくことにしよう。何も起こらなければ、墓場まで持っていくべきだろう。
「……」
母上に対して、俺は不義理を働いている。それについては、申し訳ない気持ちしかない。
だが、それでも俺は二つの家族の平和のためにも、この秘密を握り潰すつもりだ。
それは、俺のエゴなのだろう。しかし、それでもいい。各々の日常が守れるのなら、俺はどんな裁きでも受けよう。
「さらばだ、セリネア」
最後に、俺は村の方を見ながらそう呟いた。
これで全てが終わりだ。俺達と彼女達は、もう交わることはない。
そう思いながら、俺は村の方を見るのをやめる。その時には、不思議と晴れやかな気分だった。
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