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13.平民としての生活
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基本的に、私は休みの日は家でゆっくりとしている。
ラナキンス商会が紹介してくれた住まいは、集合住宅の一種だ。
貴族だった時と比べると、部屋はかなり狭い。故に初めは、私も圧迫感を覚えていた。
しかし慣れてしまえば、そんなことは気にならなくなった。ここは既に、私の憩いの場所である。
「まあ、一つ不満があるとしたらお風呂とかかしら……毎日入れないというのは、結構辛いわね。でも無駄遣いする訳にはいかないし、我慢するべきよね」
一人暮らしを始めた私は、できる限り節約することにしている。お母様の遺産があるとはいえ、豪遊することはできない。何があるかはわからないし、蓄えは多い方がいいのだ。
「さて、今日も買い物に出かけるとしますか」
部屋の鍵を閉めて、私はゆっくりと階段を下りていく。
昔はシェフが作ってくれていた食事も、今では自分で作っている。故に毎日の買い物も日課のようなものだ。
そんな風に、私は平民としての生活に段々と順応している。初めはわからないことも多くて、色々と苦戦したものだが、様々な人に助けてもらって、私は楽しい日々を過ごせているのだ。
「……あら?」
そこで私は、町の一角で辺りを見渡している若い男性を発見した。
彼は、手元の紙と周囲の景色を交互に見ている。どうやら地図と実際の地を照らし合わせているようだ。
「あの、大丈夫ですか?」
「え?」
困っているようだったので、私はその男性に声をかけてみることにした。
すると彼は、驚いたような顔をする。急に話しかけられたのだから、それは当然だ。そのため私は気にせず彼に質問をする。
「困っているように見えたのですけれど、もしかして道に迷われましたか?」
「ええ、実はそうなんです。恥ずかしながら、道がわからなくなってしまって……」
「よかったら道案内しますよ?」
「え? よろしいのですか?」
「ええ、困った時はお互い様ですからね」
私の提案に、男性はその表情を輝かせた。
端正な顔立ちの彼の笑顔には、それなりの威力がある。
ただなんというか、その笑顔は子供のようにも見えてきた。それだけ不安だったということだろうか。彼の表情からは、安堵が伺える。
「それならよろしくお願いします。実は方向音痴でして、このままでは目的地に辿り着けないと絶望していた所なんです」
「そうなんですか……」
男性は、とても大袈裟だった。
確かに道に迷うと不安になるかもしれないが、流石に絶望する程ではないだろう。
この時の私は、そんな風に呑気に考えていた。ただ、後々のことを考えると彼のその性質は本当に絶望するに値するものだったように思える。
何はともあれ、私はそこで出会ったのだ。今後私の運命を大きく変える人物に、出会えたのである。
ラナキンス商会が紹介してくれた住まいは、集合住宅の一種だ。
貴族だった時と比べると、部屋はかなり狭い。故に初めは、私も圧迫感を覚えていた。
しかし慣れてしまえば、そんなことは気にならなくなった。ここは既に、私の憩いの場所である。
「まあ、一つ不満があるとしたらお風呂とかかしら……毎日入れないというのは、結構辛いわね。でも無駄遣いする訳にはいかないし、我慢するべきよね」
一人暮らしを始めた私は、できる限り節約することにしている。お母様の遺産があるとはいえ、豪遊することはできない。何があるかはわからないし、蓄えは多い方がいいのだ。
「さて、今日も買い物に出かけるとしますか」
部屋の鍵を閉めて、私はゆっくりと階段を下りていく。
昔はシェフが作ってくれていた食事も、今では自分で作っている。故に毎日の買い物も日課のようなものだ。
そんな風に、私は平民としての生活に段々と順応している。初めはわからないことも多くて、色々と苦戦したものだが、様々な人に助けてもらって、私は楽しい日々を過ごせているのだ。
「……あら?」
そこで私は、町の一角で辺りを見渡している若い男性を発見した。
彼は、手元の紙と周囲の景色を交互に見ている。どうやら地図と実際の地を照らし合わせているようだ。
「あの、大丈夫ですか?」
「え?」
困っているようだったので、私はその男性に声をかけてみることにした。
すると彼は、驚いたような顔をする。急に話しかけられたのだから、それは当然だ。そのため私は気にせず彼に質問をする。
「困っているように見えたのですけれど、もしかして道に迷われましたか?」
「ええ、実はそうなんです。恥ずかしながら、道がわからなくなってしまって……」
「よかったら道案内しますよ?」
「え? よろしいのですか?」
「ええ、困った時はお互い様ですからね」
私の提案に、男性はその表情を輝かせた。
端正な顔立ちの彼の笑顔には、それなりの威力がある。
ただなんというか、その笑顔は子供のようにも見えてきた。それだけ不安だったということだろうか。彼の表情からは、安堵が伺える。
「それならよろしくお願いします。実は方向音痴でして、このままでは目的地に辿り着けないと絶望していた所なんです」
「そうなんですか……」
男性は、とても大袈裟だった。
確かに道に迷うと不安になるかもしれないが、流石に絶望する程ではないだろう。
この時の私は、そんな風に呑気に考えていた。ただ、後々のことを考えると彼のその性質は本当に絶望するに値するものだったように思える。
何はともあれ、私はそこで出会ったのだ。今後私の運命を大きく変える人物に、出会えたのである。
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