そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗

文字の大きさ
29 / 44

29.母の人生は

「なんというか、みっともない所を見せてしまいましたね」

 伯母様と別れてから、私はギルバートさんにそんなことを言っていた。
 まさか泣いてしまうなんて、思っていなかった。他には彼と喫茶店のマスターしかいなかったとはいえ、あれは中々に恥ずかしいことだったと思う。

「……いえ、そんなことはありませんよ。あれは恥じるべきことなどではありません」
「……そうでしょうか?」
「ええ、そうですとも」

 私に対して、ギルバートさんは力強い言葉を返してくれた。
 そんな彼に対して、私は笑みを返す。なんというか、その言葉がとても心強かったのだ。

「……本当にありがとうございました。今日はギルバートさんのおかげで、随分と助かりました」
「僕は別に何もしていませんよ」
「いいえ、きっと一人だったらこんなに簡単に夫人とは話せなかったと思います。色々な面において、あなたがいてくれてよかった……」

 ギルバートさんの存在は、本当に心強かった。
 色々と思う所がある人達に会う故に、私は色々なことを考えていた。もしもギルバートさんがいなければ、私はもっと冷静さを失っていたかもしれない。
 終わってからにはなるが、深くそう思った。故に、ギルバートさんには感謝の気持ちでいっぱいだ。

「……それにしても、母の人生というものはなんだったのでしょうね?」
「え?」
「ああいえ、すみません。ただ、ふと思ってしまって……」

 そこで私は、今日一日を振り返ってつい余計なことを言ってしまった。
 ただそれは、ずっと思っていたことでもある。母の人生は、思えば苦難の連続だったと。

「……信頼できる姉と不仲になって、最悪な夫の元に嫁いで、姉との仲直りも叶わず、とても苦しかったのだろうと思ってしまって」

 一度言葉に出したからか、どんどんと気持ちが溢れてきた。
 母の人生を考えると、落ち込んでしまう。お母様はきっと、心休まる時なんてなかっただろう。苦しい毎日の中で、彼女には何か幸せはあったのだろうか。
 考えれば考える程、母のことが可哀想に思えてくる。どうして彼女は、そんなに虐げられなければならなかったのだろうか。エルシエット伯爵家なんかに、嫁がなければ、少なくともそうはならなかったというのに。

「お母様にとって、エルシエット伯爵家に嫁いだのは不幸としか言いようがないことだったでしょうね。きっと母にとって、嫁いでからの生活は苦痛しかなかったのでしょうね」
「……それは違います」
「え?」

 私の呟きに、ギルバートさんは否定の言葉を返してきた。
 それに私は、少しびっくりしてしまう。思っていた以上に、力強い言葉であったからだ。
 ギルバートさんは、私の目を真っ直ぐに見てきた。その視線から、私は目を離せなくなる。それ程に彼の視線には力があったのだ。
感想 15

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

婚約破棄? ありがとうございます。やっと本当の人生が始まります

たくわん
恋愛
婚約破棄された令嬢がすべきことといえば、泣くか、喚くか、復讐を誓うか——らしい。 リーナ・フォスター公爵令嬢がしたことは、荷造りだった。 「冷たくて人を愛せない」と王太子に切り捨てられた夜、リーナは一度も振り返らずに王城を出た。向かった先は辺境の荒れ地。目的は薬草の栽培と薬品事業の立ち上げ。前世の記憶から温めてきた、誰にも言えなかった計画の実行だ。 リーナはそこで不器用だが誠実な騎士ヴァルターと出会う。一方、残された王太子とその新しい婚約者は、少しずつ、静かに、取り返しのつかない方向へと歩んでいたーー。

ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ

ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。 スピーナ子爵家の次女。 どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。 ウィオラはいつも『じゃない方』 認められない、 選ばれない… そんなウィオラは―― 中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。 よろしくお願いします。

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

【結婚式当日に捨てられました】身代わりの役目は不要だと姉を選んだ王子は、隣国皇帝が私を国ごと奪いに来てから後悔しても手遅れです。

唯崎りいち
恋愛
結婚式当日、私は“替え玉”として捨てられた。 本物の姉が戻ってきたから、もう必要ないのだと。 けれど—— 私こそが、誰も知らなかった“本物の価値”を持っていた。 世界でただ一人、すべてを癒す力。 そして、その価値を知るただ一人の人が、皇帝となって私を迎えに来る。 これは、すべてを失った少女が、本当に必要とされる場所へ辿り着く物語。

元婚約者がマウント取ってきますが、私は王子殿下と婚約しています

マルローネ
恋愛
「私は侯爵令嬢のメリナと婚約することにした! 伯爵令嬢のお前はもう必要ない!」 「そ、そんな……!」 伯爵令嬢のリディア・フォルスタは婚約者のディノス・カンブリア侯爵令息に婚約破棄されてしまった。 リディアは突然の婚約破棄に悲しむが、それを救ったのは幼馴染の王子殿下であった。 その後、ディノスとメリナの二人は、惨めに悲しんでいるリディアにマウントを取る為に接触してくるが……。

【完結】婚約破棄に祝砲を。あら、殿下ったらもうご結婚なさるのね? では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ。

猫屋敷むぎ
恋愛
王都最古の大聖堂。 ついに幸せいっぱいの結婚式を迎えた、公女リシェル・クレイモア。 しかし、一年前。同じ場所での結婚式では―― 見知らぬ女を連れて現れたセドリック王子が、高らかに宣言した。 「俺は――愛を選ぶ! お前との婚約は……破棄だ!」 確かに愛のない政略結婚だったけれど。 ――やがて、仮面の執事クラウスと共に踏み込む、想像もできなかった真実。 「お嬢様、祝砲は芝居の終幕でと、相場は決まっております――」 仮面が落ちるとき、空を裂いて祝砲が鳴り響く。 シリアスもラブも笑いもまとめて撃ち抜く、“婚約破棄から始まる、公女と執事の逆転ロマンス劇場”、ここに開幕! ――ミステリ仕立ての愛と逆転の物語です。スッキリ逆転、ハピエン保証。 ※「小説家になろう」にも掲載。 ※ アルファポリス完結恋愛13位。応援ありがとうございます。