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30.確かな幸せ
「アルシャナ様にとって、エルシエット伯爵家での生活は確かに苦しいものだったでしょう。でも、彼女がその全てを苦痛に思ったなんてことはありません。なぜなら、あなたがいたからです」
「私、ですか?」
「ええ、あなたですとも」
ギルバートさんは、私に対して堂々とそう言い切った。
彼の言葉に、私は息を呑む。本当に、私はお母様の救いだったのだろうか。それはずっと、疑問に思っていることだったからだ。
「でもお母様は、私にお父様の面影を感じていました。彼女にとってきっと、私は憎しむべき相手を思い出させるものでもあったと思うんです」
「そんなことはありません。幼少期父とともに会った時、アルシャナ様は僕を見てこう言いました。自分にも同じ年頃の娘がいると……その娘が、自分にとって何よりも大切だと」
「それは……」
ギルバートさんの言葉に、私は固まってしまった。
母の想い、まさかそれを聞かされることになるとは思っていなかったため、言葉が出ない。
「あなたといることが、彼女にとっては何よりの幸せだったのです。それに、アルシャナ様は言っていました。あなたに申し訳ないと」
「申し訳ない?」
「あなたを幸せにできなかったことを、彼女は悔いていたんです。当時の僕にはよくわかりませんでしたが、今ならわかります。アルシャナ様は、本当に心からあなたのこと愛していたのです」
ギルバートさんの言葉に、私は心を揺さぶられていた。
お母様が、私をどのように思っていたのか。それは実際に本人から聞いてきたことではある。
愛していると、彼女は何度私にそう言ってくれただろうか。その想いは、きっと本当に果てしないものだったのだ。私はそれを理解する。
「……なんというか、自分の愚かさを思い知らされました。ギルバートさん、申し訳ありませんでした。それから、ありがとうございます。お陰で目が覚めました」
「わかっていただけたなら何よりです」
「苦しいことも多かったけれど、それでも私も母も、二人でいる時は幸せだったのですよね……」
「ええ、そうですとも。その幸せは、偽りなんかではありません」
そこでギルバートさんは、歩き始めた。私がもう立ち直ったということがわかったからだろう。
そんな彼に、私は言わなければならないことがある。故に私は、ゆっくりと息を吸い込んだ後、彼に呼びかける。
「ギルバートさん」
「なんですか? アルシエラさん?」
「そっちは帰り道と逆方向ですよ」
「……え?」
私の言葉に、ギルバートさんは振り向いて目を丸めていた。
非常に残念なことではあるが、彼が向かっていたのは先程私達が歩いてきた道だ。そっちに行くと、帰ることはできないのである。
「参ったな……これでは、どうも閉まりませんね」
「そんなことないですよ。ギルバートさんは、かっこよかったですよ?」
「やめてください。恥ずかしいです……」
私の言葉に、ギルバートさんは頬を赤らめていた。
もしかしたら彼は、私がからかったとでも思ったのかもしれない。
しかし今の言葉は紛れもなく本心だ。本当に彼は、かっこよかった。そんなことを考えながら、私は帰路につくのだった。
「私、ですか?」
「ええ、あなたですとも」
ギルバートさんは、私に対して堂々とそう言い切った。
彼の言葉に、私は息を呑む。本当に、私はお母様の救いだったのだろうか。それはずっと、疑問に思っていることだったからだ。
「でもお母様は、私にお父様の面影を感じていました。彼女にとってきっと、私は憎しむべき相手を思い出させるものでもあったと思うんです」
「そんなことはありません。幼少期父とともに会った時、アルシャナ様は僕を見てこう言いました。自分にも同じ年頃の娘がいると……その娘が、自分にとって何よりも大切だと」
「それは……」
ギルバートさんの言葉に、私は固まってしまった。
母の想い、まさかそれを聞かされることになるとは思っていなかったため、言葉が出ない。
「あなたといることが、彼女にとっては何よりの幸せだったのです。それに、アルシャナ様は言っていました。あなたに申し訳ないと」
「申し訳ない?」
「あなたを幸せにできなかったことを、彼女は悔いていたんです。当時の僕にはよくわかりませんでしたが、今ならわかります。アルシャナ様は、本当に心からあなたのこと愛していたのです」
ギルバートさんの言葉に、私は心を揺さぶられていた。
お母様が、私をどのように思っていたのか。それは実際に本人から聞いてきたことではある。
愛していると、彼女は何度私にそう言ってくれただろうか。その想いは、きっと本当に果てしないものだったのだ。私はそれを理解する。
「……なんというか、自分の愚かさを思い知らされました。ギルバートさん、申し訳ありませんでした。それから、ありがとうございます。お陰で目が覚めました」
「わかっていただけたなら何よりです」
「苦しいことも多かったけれど、それでも私も母も、二人でいる時は幸せだったのですよね……」
「ええ、そうですとも。その幸せは、偽りなんかではありません」
そこでギルバートさんは、歩き始めた。私がもう立ち直ったということがわかったからだろう。
そんな彼に、私は言わなければならないことがある。故に私は、ゆっくりと息を吸い込んだ後、彼に呼びかける。
「ギルバートさん」
「なんですか? アルシエラさん?」
「そっちは帰り道と逆方向ですよ」
「……え?」
私の言葉に、ギルバートさんは振り向いて目を丸めていた。
非常に残念なことではあるが、彼が向かっていたのは先程私達が歩いてきた道だ。そっちに行くと、帰ることはできないのである。
「参ったな……これでは、どうも閉まりませんね」
「そんなことないですよ。ギルバートさんは、かっこよかったですよ?」
「やめてください。恥ずかしいです……」
私の言葉に、ギルバートさんは頬を赤らめていた。
もしかしたら彼は、私がからかったとでも思ったのかもしれない。
しかし今の言葉は紛れもなく本心だ。本当に彼は、かっこよかった。そんなことを考えながら、私は帰路につくのだった。
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