妹の代わりに人質として嫁いだ私は、隣国の王太子様に何故か溺愛されています。

木山楽斗

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10.故郷を思い

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ラフェイン王国での暮らしは、概ね順調である。
 女神ラルネシア様とそっくり、私のその容姿というものは、やはりかなり効果があるものであるらしい。

「ふう……」
嬢、ここにいたのか」
「ラゼルト殿下……」
「どうかしたのか? 浮かない顔をしているようだが」

 そこに訪ねて来たのは、ラゼルト殿下であった。
 彼は私に、良い笑顔を向けてきている。その笑顔からは、彼の女神への敬意のようなものが伝わって来る。

「いえ、少し実家のことを思い出していたのです」
「……そういえば、こちらはカルノード王国がある方角か」
「ええ、見える訳ではありませんけれど、それでもなんだか故郷が感じられるような気がして」
「……そうか」

 私の言葉に、ラゼルト殿下は少し面食らったような表情をしていた。
 流石に、方角だけで故郷を感じるなんておかしいと思われただろうか。しかしこれに関しては、そう思うのだから仕方ない。
 どうやら私は、少々ホームシックになってしまっているようだ。感傷に浸り過ぎている。それは悪いことではないかもしれないが、少なくともラゼルト殿下に話すべきではなかっただろう。

「アルネリア嬢は家族と仲が良かったのか?」
「え? ええ、そうですね。悪くはなかったと思いますが……」
「妹がいるのだったな? 婚約が入れ替わったということだが……」
「あ、はい……」

 ラゼルト殿下は、私にとって少々痛い所を突いてきた。
 イルフェリーナのことは、当然ラフェイン王国側には伝わっていない。こちらの国を怖く思って、婚約を嫌がっていたなんて言えるはずはないだろう。
 結果として私が嫁ぐことになって良かったとは思っているが、できれば触れたくない話題である。私は思わず、目をそらしてしまう。

「何かあったのだろうか? そういえば、その辺りについては詳しく聞いていなかった」
「それはまあ、その……妹は私よりも年下である訳です」
「……それは当然だな。妹なのだから」
「ええ、ですからこの大役に対してかなり重荷を感じていたというか、あまり自信がなかったようなのです」
「ほう……」
「だから私が、変わったんです。少なくとも妹よりは、一日の長がありますから」

 私は、少々脚色しながらラゼルト殿下に事情を伝えた。
 彼は少し、訝し気な顔をしている。なんとなくではあるが、彼も私の言葉を全て信じている訳ではないような気がする。何か隠しているということくらいは、悟られているかもしれない。
 とはいえ、流石に詳しくはわかっていないだろう。特に問題はないと思うのだが。
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