12 / 24
12.安らぎのある生活
しおりを挟む
孤児院において、家事などは当番制だ。
皆で助け合って生活する。それが孤児院の基本的な方針だ。
今日の私は、洗濯の当番である。故に同じく当番のラミリィと一緒に、膨大な数の洗濯物を干しているのだ。
「アメリアお姉ちゃんは、王都では王城で暮らしていたんだっけ? メイドさんとかが、お世話してくれてたの?」
「洗濯物とかは、そうだね。食事も作ってもらっていたし、そう考えると豪華な生活だった気はする……まあでも、私はこっちの生活の方が楽だなぁ」
「そういうものかぁ。やっぱり緊張とかしてたの?」
「それはもう存分に……」
王城での暮らしは、いい暮らしだったことは間違いない。平民である私が、普通なら絶対に味わえないような生活である。
ただやはり、あそこでの生活は苦しかった。心落ち着ける時が、まったくなかったのだ。
自室に帰って来ても、仕事の休憩くらいにしか思えていなかったような気がする。私にとって、あそこは家足りえなかったということだろう。
「まあ、王城ってすごい所だもんね……私なんかは行く機会はないだろうけど、多分すごく緊張するだろうなぁ。だって、クラウス様の前でもがちがちになるもん」
「あ、でも私もクラウス様の前だとまだまだ緊張するよ? やっぱり自分の故郷の領主様のご子息って、特別なのかも」
「へー、そういうものなんだ……」
孤児院での生活は大変なこともあるが、それでも心には安らぎがある。王城であった辛いことの数々も、今ではそれでも気になっていない。
ただ、完全に晴れやかな気持ちという訳ではないというのが現状である。同僚のことが、心配なのである。
「アメリアお姉ちゃん、どうかしたの?」
「あ、ううん。なんでもないよ」
聖女ファルティア様の横暴は、私を排除した今も続いているはずだ。それによって、同僚達が苦しめられていないかは、気になっている。
といっても、今の私にそれを確かめる術はない。ブライト様やフォーマン様が、上手くやってくれているといいのだが。
「……あれ? お客さんかな?」
「え?」
そこでラミリィは、玄関の方向に視線を向けた。誰かが来たようである。
孤児院への客人は、それ程珍しいという訳ではない。ただ粗相がないように気を引き締めなければならない。
そう思っていた私は、客人の顔を見て驚くことになった。その人物の顔には、見覚えがあったのである。
「……ナーゼルさん?」
こちらに向かっているのは、間違いなくナーゼルさんだ。私のかつての同僚が、孤児院を訪ねて来たのである。
皆で助け合って生活する。それが孤児院の基本的な方針だ。
今日の私は、洗濯の当番である。故に同じく当番のラミリィと一緒に、膨大な数の洗濯物を干しているのだ。
「アメリアお姉ちゃんは、王都では王城で暮らしていたんだっけ? メイドさんとかが、お世話してくれてたの?」
「洗濯物とかは、そうだね。食事も作ってもらっていたし、そう考えると豪華な生活だった気はする……まあでも、私はこっちの生活の方が楽だなぁ」
「そういうものかぁ。やっぱり緊張とかしてたの?」
「それはもう存分に……」
王城での暮らしは、いい暮らしだったことは間違いない。平民である私が、普通なら絶対に味わえないような生活である。
ただやはり、あそこでの生活は苦しかった。心落ち着ける時が、まったくなかったのだ。
自室に帰って来ても、仕事の休憩くらいにしか思えていなかったような気がする。私にとって、あそこは家足りえなかったということだろう。
「まあ、王城ってすごい所だもんね……私なんかは行く機会はないだろうけど、多分すごく緊張するだろうなぁ。だって、クラウス様の前でもがちがちになるもん」
「あ、でも私もクラウス様の前だとまだまだ緊張するよ? やっぱり自分の故郷の領主様のご子息って、特別なのかも」
「へー、そういうものなんだ……」
孤児院での生活は大変なこともあるが、それでも心には安らぎがある。王城であった辛いことの数々も、今ではそれでも気になっていない。
ただ、完全に晴れやかな気持ちという訳ではないというのが現状である。同僚のことが、心配なのである。
「アメリアお姉ちゃん、どうかしたの?」
「あ、ううん。なんでもないよ」
聖女ファルティア様の横暴は、私を排除した今も続いているはずだ。それによって、同僚達が苦しめられていないかは、気になっている。
といっても、今の私にそれを確かめる術はない。ブライト様やフォーマン様が、上手くやってくれているといいのだが。
「……あれ? お客さんかな?」
「え?」
そこでラミリィは、玄関の方向に視線を向けた。誰かが来たようである。
孤児院への客人は、それ程珍しいという訳ではない。ただ粗相がないように気を引き締めなければならない。
そう思っていた私は、客人の顔を見て驚くことになった。その人物の顔には、見覚えがあったのである。
「……ナーゼルさん?」
こちらに向かっているのは、間違いなくナーゼルさんだ。私のかつての同僚が、孤児院を訪ねて来たのである。
13
あなたにおすすめの小説
彼女を選んだのはあなたです
風見ゆうみ
恋愛
聖女の証が現れた伯爵令嬢のリリアナは聖女の行動を管理する教会本部に足を運び、そこでリリアナ以外の聖女2人と聖騎士達と出会う。
公爵令息であり聖騎士でもあるフェナンと強制的に婚約させられたり、新しい学園生活に戸惑いながらも、新しい生活に慣れてきた頃、フェナンが既婚者である他の聖女と関係を持っている場面を見てしまう。
「火遊びだ」と謝ってきたフェナンだったが、最終的に開き直った彼に婚約破棄を言い渡されたその日から、リリアナの聖女の力が一気に高まっていく。
伝承のせいで不吉の聖女だと呼ばれる様になったリリアナは、今まで優しかった周りの人間から嫌がらせを受ける様になるのだが、それと共に他の聖女や聖騎士の力が弱まっていき…。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっていますのでご了承下さい。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。
石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。
やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。
失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。
愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。
【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!
えとう蜜夏
恋愛
ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。
ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。
その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。
十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。
そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。
「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」
テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。
21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。
※「小説家になろう」さまにも掲載しております。
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。
だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。
もしかして、婚約破棄⁉
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
聖女姉妹の姉は、妹に婚約者を奪われました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私ミレッサと妹シアノは数週間前に聖女の力を得て、聖女姉妹と呼ばれていた。
一週間前に私はルグド王子、シアノは侯爵令息カインとの婚約が決まる。
そして――シアノの方が優秀だから、婚約者を変えたいとルグド王子が言い出した。
これはシアノの提案のようで、私は婚約者を奪われてしまう。
ルグド王子よりカインは遙かにいい人で、私は婚約者が変わったことを喜んでいた。
そして数ヶ月後――私の方が、妹より優れていることが判明した。
婚約者の愛した人が聖女ではないと、私は知っています
天宮有
恋愛
私アイラは、3人いる聖女候補の1人だった。
数ヶ月後の儀式を経て聖女が決まるようで、婚約者ルグドは聖女候補のシェムが好きになったと話す。
シェムは間違いなく自分が聖女になると確信して、ルグドも同じ考えのようだ。
そして数日後、儀式の前に私は「アイラ様が聖女です」と報告を受けていた。
婚約者を処刑したら聖女になってました。けど何か文句ある?
春夜夢
恋愛
処刑台に立たされた公爵令嬢エリス・アルメリア。
無実の罪で婚約破棄され、王都中から「悪女」と罵られた彼女の最期――
……になるはずだった。
『この者、神に選ばれし者なり――新たなる聖女である』
処刑の瞬間、突如として神託が下り、国中が凍りついた。
死ぬはずだった“元・悪女”は一転、「聖女様」として崇められる立場に。
だが――
「誰が聖女? 好き勝手に人を貶めておいて、今さら許されるとでも?」
冷笑とともに立ち上がったエリスは、
“神の力”を使い、元婚約者である王太子を皮切りに、裏切った者すべてに裁きを下していく。
そして――
「……次は、お前の番よ。愛してるふりをして私を売った、親友さん?」
清く正しい聖女? いいえ、これは徹底的に「やり返す」聖女の物語。
ざまぁあり、無双あり、そして……本当の愛も、ここから始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる