私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗

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13.硬い表情は

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 私はフレイル様とともに、バルフェルト伯爵家の領地内にある村に馬車で向かっていた。
 領地の民との交流、それは大切なものである。しっかりと務めなければならない。

「……アルティア嬢、緊張していますか?」
「え?」
「いや、とても表情が硬いので……」

 正面に座るフレイル様は、少し遠慮がちに私に声をかけてきた。
 その指摘というものに、私は少し焦る。表情が堅い。それは非常にまずいことであるといえる。

「そ、そんなに硬いでしょうか?」
「ええ、以前、領地の自然を案内した時と比べると、とても硬いと思ってしまいます」
「……まあ、あの時は間違いなく素であったでしょうから、そうなのでしょうね」

 緊張している自覚が、ないという訳ではない。大切な役目であると思っているため、それはむしろ当然のことだといえるだろう。
 しかしながら、表情が硬いというのは問題だ。民との交流――というよりも人と会うにあたって、第一印象というものは肝心だ。そこで躓くと、取り返すのは難しい。
 緊張していることが伝わることは、構わない。ただ、貴族の表情が硬いと、怖がらせてしまう可能性がある。それはできれば避けたいものだ。

「……実の所、こういった民との交流はそこまで得意ではないのです」
「そうなのですか?」
「ええ、私はどうも硬いという印象を与えがちで……」
「まあ、アルティア嬢はきちんとされていますからね。そういった所を見ると、平民の方々は少しとっつきにくいと思ってしまうのかもしれません。もちろん貴族の視点からは、美徳であると思いますが……」

 オルファン侯爵家に属していた時も、そういった失敗をしたことはあった。私はどうやら、堅苦しい人間であるようなのだ。
 平民から親しみを持ってもらえるような貴族に、なりたいとは思っている。しかしどうしていいのかが、未だにわからない。気楽な態度というものが、私には難しいものなのだ。

「……フレイル様は、そういった点についても問題はなさそうですね」
「え? そう見えますか?」
「ええ、とても人当たりが良さそうな顔をしています。まあそれは、バルフェルト伯爵家の方々全般にいえることではありますが」
「まあ、確かにそうかもしれませんね。お祖父様も、領地の方々から慕われています」

 バルフェルト伯爵家は、民達から慕われているようである。そういった点に関しては、オルファン侯爵家とは違う。家はお祖父様の代でも、平民からは恐れられていた節がある。
 なんというか、手伝う所か私は足手纏いかもしれない。これなら何もしない方がマシだったのではないだろうか。そんな考えが頭を過ってくる。

「アルティア嬢、大丈夫ですよ」
「え?」
「アルティア嬢は、良い人です。話していれば、それはわかります。領地の方々も、きっとわかってくれますよ」

 そこでフレイル様は、とても温かい言葉をかけてくれた。
 それはとてもありがたいことだ。ただこんな言葉をかけられている時点で、迷惑をかけているといえる。
 私はあくまでも、お世話になっているバルフェルト伯爵家に恩を返すためにここにいるのだ。きちんとフレイル様を補助できるように、頑張らなければならない。
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