上 下
27 / 70

第27話 目を開けられず

しおりを挟む
 私は、イルディンと同じ布団で目覚めていた。
 先に目覚めた私だったが、まだ弟が眠っていたため、二度寝しようとしていた。しかし、その隙にイルディンが目覚めてしまったのである。
 諦めて目を覚まそうとしていた私だったが、焦る弟のことで色々と考えてしまったため、まだ目を瞑ったままだ。未だ、イルディンは私が起きていることに気づいていない。

「落ち着け、僕……まずは、深呼吸からだ。心を落ち着かせれば、きっと妙案が浮かんでくるはずだ……」

 イルディンは、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
 どうやら、優しい弟はかなり焦っているようだ。その様子は、少し可愛らしく思える。

「はー……ふう……」

 私の目と鼻の先で、イルディンは深呼吸を始めた。
 しかし、弟は焦り過ぎている。絶対に、周りが見えなくなっているだろう。
 目の前で深呼吸をすれば、その吐息は当然私に当たる。その生温かい吐息は、少しくすぐったいものだ。
 こんなことをすれば、普通に私を起こしてしまうだろう。既に目覚めている私は特に気にしないが、明らかに判断ミスである。

「……気づかれないように、抜け出すか」

 深呼吸をした後に弟が出した結論は、とても単純明快なものだった。
 私に気づかれないように、布団の中から抜け出す。それは、単純だがそれなりに難しいものである。
 同じ布団で寝ている以上、イルディンが動けば、布団が動く。それが大きな動きだと、当然私が目覚めてしまうだろう。そのため、弟はかなり慎重に動かなければならないのだ。

「よし……うん?」

 動こうと決心したように思えたイルディンは、何故か動かなかった。
 その理由は、なんとなくわかっている。
 今まで自然過ぎて気づかなかったが、私の片腕はイルディンの体の上にあるのだ。焦っていた弟も、今その事実に気づいたようである。
 この状態で、イルディンが動けば、当然私の腕は動く。そうなれば、私が起きることは明白である。
 だから、イルディンは動きを止めるしかない。また、振り出しに戻ってしまったのである。

「くっ……」

 現状を理解して、強くなった弟は苦しそうな声をあげた。
 婚約破棄の時も、騎士達と対峙した時も堂々としていた弟が、ここまで困惑するとは驚きである。
 ただ、苦しいのはイルディンだけではない。実は、私もとても厳しいのである。
 なぜなら、弟が色々と言っているのを聞いてしまった現状、目を開ける訳にはいかなくなってしまったからだ。
 このまま目を開けると、弟はとても悲しい思いをしてしまう。それは、姉としてできれば避けたいことだ。
 しかし、動いたら、それはそれで怪しまれる気がする。そのため、動くこともできない。この現状は、それなりに苦しいものである。
 イルディンと同じく、私もこの状況を打開する方法を考えなければならない。そうしなければ、ずっと布団から出ることができなくなってしまうだろう。
 こうして、私達姉弟は、お互いに色々と思考することになってしまったのである。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界迷宮のスナイパー《転生弓士》アルファ版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:584

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:302

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:668pt お気に入り:138

友人の好きな人が自分の婚約者になりそうだったけど……?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:241pt お気に入り:769

処理中です...