派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。

木山楽斗

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8.苛烈な生徒会長

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 入学式が始まって、私は壇上の人物の言葉に耳を傾けていた。
 今は、校長先生が話している。こちらの世界でも、その話が無駄に長いという特徴は変わっていない。
 さらに、その発言の内容も、私がかつていた世界とそこまでの違いがない。どうやら、どちらの世界でも先生という職業の性質は変わらないようである。

『それでは、次は生徒会長からの歓迎の言葉です』

 校長先生が壇上から下りた後、会場にはそんな言葉が響いた。その直後、壇上に一人の男性が上がっていく。
 彼のことは、よく知っている。なぜなら、この学校の今年の生徒会長は『Magical stories』の攻略対象の一人だからだ。

『新入生の諸君、私はこの学園の生徒会長ディゾール・ロンバスだ。まずは、諸君らの入学を心から歓迎しよう』

 壇上の人物は、ゆっくりと名乗りを上げた。ディゾール・ロンバス、公爵令息である彼は、良くも悪くも印象に残る人物だ。
 入学式のシーンは、ゲームの中にもあった。そこで彼が言ったことは、今でも私の中にしっかりと刻み付けられている。

『さて、早速ではあるが、私は諸君らに問いたい。諸君らは、この学園において、何を成し遂げたいのかと』

 彼の一言で、会場は少しざわついた。それは当然だろう。まさか、歓迎の挨拶でそんな質問をするなんて、誰も思っていないはずである。

『諸君らが、三年間この学園でどう過ごすのかは、諸君らの自由だ。何もせずに腐るのも、何かを成し遂げ自らを高めるのも、諸君ら自身が決めることだ。だが、敢えて言っておこう。ここで腐る人間に、未来はないと』

 ディゾール様は、淡々と自身の考えを口にした。それは、凡そ新入生を歓迎しているという風ではない。むしろ、私達をふるいにかけるかのような雰囲気まで醸し出している。
 彼という人間は、そういう人間だ。ゲームをプレイしていた時から思っていた。ディゾール様は、とても苛烈な人間なのだと。

『何かを成し遂げる機会があるというのに、何もせず腐ってきた人間を俺は何人も見てきた……学生であるという立場に甘え、この三年間を遊んで過ごそうとなど考えているなら、それがどれだけ愚かなことであるかを自覚しろ』

 ディゾール様の言葉に、会場はすっかり冷えていた。困惑と恐怖が、辺り一面に渦巻いている。会場の雰囲気は、入学式とは思えない。
 私がこの感覚を味わうのは二回目だ。ゲームをしていた時も、こんな心情になったことをよく覚えている。

『諸君らが腐るのは勝手だ。俺はそれを止めるつもりはない。愚か者にわざわざなりたいというなら、そうするがいい』

 彼の言っていることは、理解できない訳ではない。要するに、ディゾール様はこの三年間を無駄にするなと言っているのだ。
 だが、言い方というものがあるだろう。最初に彼の言葉を聞いた時、私はそう思っていた。
 しかし、ゲームをプレイしていて、少しだけ思ったことがある。彼のその苛烈な言葉に反感を覚えるというのは、もしかしたら甘えなのかもしれないと。

「なんだよ、あの生徒会長……」
「本当だぜ。滅茶苦茶なこと言いやがって……」

 この魔法学園は、貴族や高い能力を持った平民が入学している。そんな人物が、仮に三年間遊び惚けているなら、それは大いに問題であるはずだ。
 もし私がその貴族の領地の平民だったとして、もし私がその平民を推薦した者だったとして、その行いを許せるだろうか。
 この魔法学園に通うにあたって、甘い認識でいいはずはない。この世界では、誰でも通える訳ではないこの場所にいるということに対して、私達は責任感というものを持つ必要があるのではないだろうか。
 ゲームをプレイして、この世界に転生して、私はそんな感想を覚えていた。それが正しいのかはわからないが、少なくともディゾール様の言葉を今は頭ごなしに否定することはできないのだ。

「なんで、あんな奴が生徒会長なんだよ……」
「まったくだぜ」

 ディゾール様の言葉に反感を覚えた者達は、口々に彼を罵倒していた。
 それは、彼の言葉が図星だったからなのではないか。今の私には、そう思えてしまった。
 もっとも、私は攻略対象の一人であるディゾール様に対してある程度色眼鏡がある。彼に対して、一定の情があるのだ。
 だから、彼の味方のような態度になるのかもしれない。私は、公平な立場ではないのだ。
 そのため、ここで反感を抱いている人達の方が正しい可能性は充分あるだろう。なんといっても、私も最初に聞いた時はどちらかというとそちら側だったはずだからだ。
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