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 私は、ウェルリフ伯爵の元に向かっていた。
 私の提案の後、お父様はすぐに彼と連絡を取ったらしい。その結果、ウェルリフ伯爵は快く提案を受け入れてくれたそうだ。
 話し合いの結果、私から彼を訪ねることになった。という訳で、私は彼の元に向かっているのだ。

「私の悪評は、私自身も知っています。そんな私の元に嫁ぎたくないと思ったあなたのご令嬢を責めるのは酷というものでしょう。彼女が婚約したくないというなら、その思いは尊重されるべきだと思います。そのことについて、私はそちらに一切責任を求めないことを約束します」

 お父様から預かった手紙を見ながら、私は色々と考えていた。
 リスリナの判断を仕方ないとして、こちらに責任を求めないという彼の言葉は、こちらにとってとてもありがたい言葉である。
 しかし、そこまで言えるものなのだろうかと疑問に思ってしまう。なんというか、少しこちらに都合が良すぎるような気がするのだ。

「リスリナ嬢の姉上であるラスリア嬢が、私との婚約を望んでくれているなら、婚約者を変更することに反対する理由はありません。嫌がっているリスリナ嬢と無理やり婚約しても、それはお互いのためにならないはずです」

 文面から伝わってくるのは、お父様の言っていた通りの誠実な人物という印象である。お父様が骨抜きになってしまうことがわかるくらい、彼からは誠実な印象を受けるのだ。
 だが、同時に違和感も覚えた。誠実な印象を受けつつも、私は彼を疑っているのだ。
 それは、当然のことなのかもしれない。言葉なんて、いくらでも取り繕うことができる。これだけで彼を信頼するなんて、できるはずはないのだろう。
 確か、お父様は実際に会っているはずだ。だから、あれ程までに彼のことを信頼しているのではないだろうか。

「ラスリア嬢が、婚約破棄されたという事実に関しても、私は特に気になりません。悪評を抱えているというなら、私も同じです。いや、私の悪評は婚約破棄以上のものだと思います。そんな僕ですから、彼女の悪評について咎めようなどとは思いません」

 実際に彼と会えば、私も何かわかるのだろうか。
 アルザー・ウェルリフ伯爵、彼がどのような人間なのか、私は興味を抱いていた。
 やはり、気になったのはお父様の態度だ。あれ程に信頼するような何かが、彼にあったのか。私はそれを確かめたいと思っているのだ。

「さて……」

 そんなことを考えている内に、私はウェルリフ伯爵家の屋敷についていた。
 いよいよ、彼と対面することになるのだ。
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