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1.良き夫婦として

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 私が嫁ぐことになったランドール侯爵家の内情は、中々に複雑なものだった。
 現在爵位を継いでいるアルフェルグ様は、ランドール侯爵家にとっては私生児である。彼は、前ランドール侯爵と妾との間に生まれた子供だ。
 そんな彼が侯爵家を継ぐことになったのは、本妻の子供に相次いで不幸が起こったからである。その結果、本来ならお鉢が回ってくることがない彼が、侯爵を受け継いだのだ。

 その諸々の手続きを済ませた後に、前ランドール侯爵も身罷られた。
 病に犯された中で、息子が相次いで亡くなり、妾の子に家の未来を託した彼の心情を考えると、胸が痛くなってくる。

 はっきりと言って、ランドール侯爵家は呪われているとしか言いようがない。
 そのような不可思議なことを信じていない私でさえ、そう思ってしまう。

 そんなランドール侯爵家に、私を嫁がせたお父様の判断は、一体何を意図したものだったのだろうか。
 正直な所、それはよくわからない。弱体化したランドール侯爵家を取り込むことが狙いなのだろうか。
 その割にはそういう動きを見せていないし、お父様が何を考えているかはさっぱりだ。

 とはいえ、それらのことを私が考える必要などはないだろう。
 意図を教えていないということは、意図を教える必要がないということだ。
 それなら私は、ただアルフェルグ様の妻としての役目を果たせばいい。それが今の私の考えである。

「ラフィティアは、自慢の妻ですよ。彼女あっての私です」
「いいえ、私はただ妻として当たり前のことをしているだけですよ。アルフェルグ様の躍進は、アルフェルグ様自身の努力の賜物です」

 私の夫であるアルフェルグ・ランドール侯爵は、優秀な人間だった。
 公表されていないとはいえ、彼が妾の子であることは知られている。それにも関わらず、彼の評価は高い。それはその手腕や人柄が、考慮されてのことだろう。

 そんな彼を支える妻として、私の名前も知られるようになってきた。
 優秀な夫を献身的に支える妻とそれに感謝し愛する夫。それが私と彼の関係性である。

「ははっ! 羨ましい限りだな。君達のような夫婦を、おしどり夫婦とでもいうのだろうな」
「いえ、そんなことは……」
「ええ、私達なんてまだまだです……」
「謙虚だな……しかし、あまりに謙遜するのも良くないぞ。卑屈に思われてしまうかもしれないからな。はっはっはっ!」

 しかし実の所、私とアルフェルグ様の関係は社交界で知られている通りという訳ではない。
 少なくとも、私達は言われているようなおしどり夫婦ではない。私とアルフェルグ様は、そんな清らかな関係性などではないのである。
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