心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗

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 私は、ロウィードに自らの思いを打ち明けることに決めた。
 緊張している私だったが、いよいよ本題に入ろうとしていた。
 ゆっくりと深呼吸をしてから、意思を固める。私は、彼にはっきりと思いを告げるのだ。

「ロウィード……私は、あなたのことが……その、好きなのよ」
「え?」
(え?)

 私の言葉に、ロウィードは固まっていた。
 心の声も聞こえてこないので、本当に頭の中が真っ白になったのだろう。
 それは、仕方ないことである。突然、こんなことを言われるとは思っていなかっただろう。

 彼の心の声が聞こえてこないため、私は少し不安になっていた。
 もちろん、この告白に対する答えはわかっている。だが、それでも不安になってくるのだ。

「あ、えっと……」
(俺のことが好き? 俺のことが好き? 俺のことが好き?)
「ロウィード、少し落ち着いて……」
「あ、ああ……」
(そうだ……落ち着け、俺……)

 ロウィードは、かなり動揺していた。
 私の言葉が心の中で反芻される程、混乱しているようだ。
 そんな彼には、一度落ち着いてもらわなければならない。答えを出してもらうためにも、ゆっくりと私の言葉を飲み込んでもらいたいのだ。

「つまり……」
(つまり、カルミラは俺のことが好きという訳か……そうか、俺のことが好きだったのか……)

 ロウィードは、少しだけ顔をにやけさせた。
 どうやら、私の告白に喜んでくれているらしい。
 その反応で、やっと私も安心してきた。彼は、私の思いを嫌がっていないのだと、改めて実感できたからだ。

「カルミラ、ありがとう……お前の気持ち、嬉しいぜ」
(嬉しいな……カルミラが、俺のことを思ってくれていたなんて……)
「ええ……」
「お前の告白に、俺も返答しないといけないな……」
(カルミラが勇気を出して告白してくれたんだ。俺も、きちんと返答しないとな……)

 ロウィードは、私の告白に返答しようとしてくれていた。
 だが、彼の心の声に対して、私は少し申し訳ない気持ちになっていた。
 私が勇気を出したことは、間違っていない。だが、私が出した勇気など、他の人に比べれば些細なものだろう。
 だから、感心している彼に少し申し訳なかった。私は、そこまで優れた人間ではないのである。

「カルミラ、俺もお前のことが好きだ」
(カルミラ、俺もお前のことが好きだ)
「ロウィード……」

 ロウィードは、私の目を真っ直ぐに見て告白してくれた。
 彼のその思いは、わかっていたことである。今まで、何度かその心の声を聞いてきたからだ。
 だが、わかっていたことでも、言葉にしてもらえるというのは、とても嬉しいことだった。
 いくら心の声が聞こえても、はっきりと言葉にしてくれることは、それに勝る喜びを与えてくれるのだ。
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