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 私は、イルファー様に王城の書庫に連れてこられていた。
 王子の一人が、ここにいるのだろう。

「ここに王子の一人がいるのですか?」
「ああ、暇があったら、奴は大抵ここにいる。恐らく、今日も来ているだろう」
「あっ……」
「やはり、ここにいたか」

 書庫を進んで行くと、一人の男性が本を読んでいた。
 男性は、私達に気づいていない。本に夢中になっているのだろう。
 ここに入る際、戸を開けた音は下だろうし、足音もしたはずである。それなのに気づいていないということは、相当集中しているということだ。

「ウォールス、いつまで本に夢中になっている」
「……」

 イルファー様が話しかけても、男性は答えなかった。
 この人が、この国の第三王子であるウォールス様なのである。

「いい加減にしろ」
「なっ……!」

 まったく気づかない第三王子に対して、イルファー様は本を取り上げるという手段で対抗した。
 そこまでしないと気づかないというのは、最早心配になってくるレベルである。

「兄貴? それに、そっちの女性は……」
「話していたことを覚えているか? こちらが、私の婚約者であるリルミア・フォルフィス侯爵令嬢だ」
「リルミア・フォルフィスです」
「ああ、そういえば、そんな話を聞いた気がするな……」

 ウォールス様は、ゆっくりと立ち上がり、こちらに手を伸ばしてきた。
 とりあえず、私はその手を取る。握手してみてわかったが、彼の手は所々盛り上がっている。恐らく、タコか何かができているのだろう。
 よく見てみると、彼は結構筋肉質だ。本の虫であるらしいが、武術の類も心得があるのかもしれない。

「俺は、ウォールス。この国の第三王子だ。あんたにとっては、義弟になる存在という所かな?」
「あ、はい……よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む」

 ウォールス様は、イルファー様に比べて大分軽い口調だった。
 人によっては、失礼と思われかねないような態度である。だが、私は別に気にならない。
 長年、失礼な男と婚約者だった私にはわかる。彼は、別に悪い人ではない。相手を見下しているとか、そういう訳ではないのだ。

「ウォーラス、本に集中するのはいいが、周りのことをもっと気にかけろ。私達の来訪に気づかない程に夢中になることはいいことではないぞ」
「悪かった。でも、そいつには興味深いことが書いてあるんだよ。全部頭に入れるには、それなりに集中しなければならなかったんだ」
「それでも、周りのことも気にかけろ。そうでなければ、いざという時困るのはお前だぞ」
「わかった。肝に銘じておくことにするさ」

 イルファー様は、ウォーラス様のことを注意していた。
 その様子だけ見ていると、普通の兄弟である。元々、彼は兄との確執しかもっていなかった。そのため、弟とは普通に接することができるのだろう。
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