家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗

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29.緊張する挨拶

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 クレイド様は、私のお兄様とお姉様と会うことになった。
 ウェリーナお姉様の方は、特に心配していないのだが、問題はイルフェンお兄様の方である。
 彼が、クレイド様を許してくれるのか。それが、重要なことである。
 もっとも、イルフェンお兄様に私の婚約を決める権利があるという訳ではないのだが。

「初めまして、僕はクレイド・レヴラント。この国の第三王子で、エルミナさんの婚約者をさせていただいています」

 二人の前で、クレイド様はそのような挨拶をした。
 明らかに緊張している様子だ。やはり、イルフェンお兄様のことが気になっているのだろう。

「エルミナから、話は聞いています。どうか、エルミナのことをよろしくお願いします、クレイド様……」
「は、はい……」

 クレイド様の挨拶に、ウェリーナお姉様はそのように返した。
 それは、とても丁寧な挨拶である。流石は、お姉様だ。
 一方で、私はお兄様のことが気になっていた。とりあえず、彼の様子を窺ってみる。

「……」

 イルフェンお兄様は、険しい顔をしていた。
 その表情は、微妙なものだ。ただ、敵意を向けているようにも見えるが、緊張しているようにも見えなくもない。

「イルフェンお兄様も、挨拶してください。もしかして、緊張しているのですか?」
「……いや、そういう訳ではない」

 そんなお兄様に、お姉様が話しかけてくれた。
 流石に、この場で何も言わないのはまずいことは、お兄様もわかっているはずだ。私に対する思いは強いが、こういう場ではきちんとできる人である。きっと、いい答えを出してくれるはずだと信じたい。

「……クレイド王子、エルミナは私にとって大切な妹です。あなたにその妹を任せる。それは私にとって、とても心配なことなのです」
「……はい。大切な妹君を預かるということは、とても重大なことだと認識しています」
「どうか、よろしくお願いします」
「はい……」

 イルフェンお兄様は、クレイド様にゆっくりと頭を下げた。
 やはり、彼の心境にも変化があったのだろうか。それとも、私達にああ言っていただけで、実際に会ったらこんな感じになったのだろうか。
 どちらにしても、お兄様はとても丁寧な挨拶をしてくれた。それが、私は嬉しい。これで、やっとクレイド様が認められたのだ。とても安心できる。
 こうして、クレイド様と二人の挨拶は終わったのだった。
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