散々虐げてきた私が初恋の子だったからと今更手の平を返した所で、許せる訳がないではありませんか。

木山楽斗

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14.彼との決別

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 私は、ラーバスさんとともにエガード侯爵家の屋敷に戻って来ていた。
 オルドス様と話をつけに来たのだ。ラーバスさんなどには反対されたが、どうしても彼と直接話したかったのである。

「婚約破棄、だと?」

 私の目の前で、オルドス様は目を丸めていた。
 信じられない。彼の表情からは、そのようなことが伝わってくる。
 そこまで純粋に驚けることが、私にとっては驚きだ。彼は今まで私にしてきた仕打ちを、何も覚えていないというのだろうか。

「ミルティア、どうしたんだ? 急にそんなことを言い出すなんて……」
「オルドス様、私は今まであなたにされてきたことを許すことなどできません。あなたと婚約破棄して、それらのことを糾弾するつもりです」
「……許されないことをしたことは、わかっている。しかし僕は、ちゃんと反省しているんだ。謝りもした。何だったら、ここでもう一度頭を下げてもいい。これからは君を大切にする。そう思っているんだ。実行もしている。真実がわかってから、僕は君を大切にしているじゃないか」

 オルドス様は、早口でまくし立ててきた。
 謝られても許せることと許せないことがある。そんなことを言っても、彼は理解してくれなさそうだ。

「オルドス様、あなたは最初から間違っています。私が初恋の相手だったからと態度を改められても、私はあなたの本性を知っているんです。あなたは傲慢で自分勝手で、人を虐げることを楽しむ最低な人間です。仮に私が、あなたの被虐の対象でなかったとしても、私はあなたを受け入れはしません」
「な、なんだと?」

 オルドス様は、大きな勘違いをしている。
 彼は攻撃的で残虐なその性質を、私に向けなければ良いなどと思っている節がある。
 しかしそうではない。例え相手が私でなかったとしても、彼の行為は問題でしかない。まともな人間であるならば、彼の愛を受け入れたりはしない。

「君は忘れてしまったのか? このペンダントを見ろ。君が送ってくれたこの星のペンダントは、ずっと大切にしてきたんだ」
「だからなんだというのですか? そんなことはどうでもいいことです。その星のペンダントに向ける優しさを、どうして人にも向けられないんですか? 私には理解できません」
「君だって、僕が送ったペンダントを大切にしてきたのだろう?」
「ええ、そうです。私にとっても、これは大切な思い出でした」

 私は、オルドス様が指摘した月のペンダントを取り出した。
 これは私にとって、大切なものだった。これをくれた人は、どこかで立派な人になっているのだと信じていた。
 ただ、現実はそうではなかったのだ。これを渡してくれた純粋だった男の子の成れの果てが、今目の前にいる悪漢なのだから。

「こんなもの……」
「ま、待て、何をする?」

 私は、床に落としたペンダントをゆっくりと踏み潰した。
 それは私にとって、過去との決別を表している。
 これから私は、今と向き合う。そのために、しっかりと前を向く。この悪魔は、私が断ち切らなければならないものなのだ。
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