散々虐げてきた私が初恋の子だったからと今更手の平を返した所で、許せる訳がないではありませんか。

木山楽斗

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28.もっと近づいて

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「そういえば、最初に会った時ラーバスさんはもっと砕けた口調でしたよね?」
「え?」

 事件に関する報告が一段落ついたため、私は前々から気になっていたことを聞いておくことにした。
 初めて会った時、私達はお互いの身分を知らなかった。そのためラーバスさんも、素に近い口調だったはずである。私はそのことについて、ずっと密かに考えていたのだ。

「あの時は申し訳ありませんでしたね……」
「ああいえ、咎めたいという訳ではないんです。むしろ、あの時の口調に戻ってもらいたいといいますか……」
「え?」

 私の言葉に、ラーバスさんは目を丸めていた。
 彼がそのような反応をするなんて、珍しい。それだけ私の提案が、突拍子もないものだったということだろうか。

「夫婦になる訳ですし、距離感があるのは良くないと思ってしまって。そもそもの話、私がラーバスさんよりも上の身分であるかどうかも怪しい所でしょう?」
「……何度も言っていますが、私は正式な王族としては認められていません」
「でも、今度は侯爵相当の地位を承ることになるのでしょう? それなら結局の所、私の方が地位は下ということになります」
「それはそうですが……」

 ラーバスさんはその出自もあって、色々と複雑な立ち位置にいる。身分や地位の問題というものには、色々と敏感なのかもしれない。
 正直な所、私にとって重要なのはそこという訳でもない。私はただ、初めて会った時の方がラーバスさんとの距離感が近かったような気がして、それに戻りたいというだけだ。

「……わかりました。いや、わかったという方が正しいだろうか。俺も相応の口調を心掛けるとしよう。しかしそういうことなら、君にも改めてもらいたい。距離感というなら、片方だけが変わっても意味がないだろう」
「え? えっと……そうですね。ではなく、そうだね。でしょうか? まあ、そういうことなら、私も素で、いいのかな?」

 ラーバスさんの提案に、私は乗るしかなかった。彼に同じことを言ったのだから、私もそうしなければ不公平だと思ったからだ。
 しかし百パーセントの素というものを見せるのは、やはり恥ずかしい。私の言葉遣いは、なんというか貴族のお嬢様らしくもない訳だし。

「メルリナ嬢と接していた時とも、また違った口調だな?」
「それはラーバスさんがいたからね……あれはなんというか、公人として妹と接する時の口調というか」
「なるほど」

 私達は、どこかぎこちない会話を交わしていた。
 いきなり口調を変えたのだから、それは当然のことである。まあ、段々と慣れていくだろう。そんなことを考えながら、私は会話を続けるのだった。
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