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1(クラール視点)
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タルギス王国の商人一家であるウォングレイ家が有名になったのは、ここ最近のことだ。
当主がクラール・ウォングレイに移り変わったことで頭角を現したことから、初めは彼という人間がとても優秀であると思われていた。
しかし、その当の本人は、ウォングレイ家の大成は妻のおかげであると発言したことから、人々の注目はウォングレイ夫人へと移り変わっていった。
だが、ウォングレイ夫人のアルシーナという女性は、謎の人物であった。
彼女の経歴は不明である。どこで生まれたのか、どのような人生を歩んできたのか、それを知る者は誰もいなかった。
そんな時、タルギス王国を、いや、タルギス王国だけではなく全世界を震撼させる出来事があった。
件のアルシーナ・ウォングレイが、自らを行方不明になっていたウェンシィ王国の公爵令嬢、ファルテリナ・ロガルサだと宣言したのである。
彼女が何故、名前を変えて他国で商人一家の妻となったのか。何故、今頃になって名乗ったのか。人々の注目は、一人の数奇な運命を背負った女性に向けられるのだった。
◇◇◇
とある商談の帰り道、私はエルガム岬という場所に来ていた。
商談の相手から聞いたのだが、その岬から見える景色が大変綺麗であるらしいのだ。
個人的にも興味はあったが、次に会った時の話の種になることから、私はその岬に寄ってから帰路につくことにしたのである。
「おや……」
そんな訳でやって来たのだが、エルガム岬には先客がいた。
もちろん、人がいることは別におかしいことではない。ここは一応それなりに有名な場所であるらしいので、誰かが見に来てもおかしくはないだろう。
ただ、その女性の雰囲気が少し儚げというか、哀愁が漂っているように見えたため、私は少し心配になっていた。
これも商談の相手から聞いたのだが、この岬では時々嫌なことも起こるらしい。綺麗な場所であることから、身投げする者がいるそうなのだ。
私の目の前にいる先客は、正に今身投げしようとしているように見えた。次の瞬間にでも飛び出してしまいそうなそんな風に見えてしまったのである。
「……早まってはいけません!」
「え?」
そんな訳で急いで駆け寄って、彼女を制止することにしたのだが、私の呼びかけに女性は目を丸くした。
その表情を見て、私は自分が勘違いしてしまったことを悟った。恐らく、この女性は身投げしようとしていた訳ではないだろう。
「……もしかして、私がここから身投げしようとしているとでも思ったのでしょうか?」
「え、ええ、恥ずかしながら……」
「なるほど、急に血相を変えて呼びかけてこられたので、少し驚いてしまいましたが、そういうことなら納得することはできます。まあ、こんな所で女性が一人で見惚れていたら、確かにそう思うのかもしれませんね?」
「いえ、自分の早とちりでした……」
私の勘違いに、女性は笑っていた。なんというか、とても恥ずかしい。
しかし、彼女は本当に飛び込みそうに見えた。あれは一体、どうしてだったのだろうか。
あの儚い顔は、何もない女性ができるような表情ではない。偏見かもしれないが、私はそのように思っていた。
「ですが、あなたは何か悩んでいるのではありませんか?」
「あら? どうしてそう思うのでしょうか?」
「あなたの表情が、そのように思えたのです」
気になったので、私は彼女に聞いてみることにした。
別に聞くだけなら、ただである。それで彼女が悩みを抱えていなかったら、もしくは抱えていても話したくないなら否定されるだけなので、とりあえず聞くだけ聞いてみればいいと思ったのだ。
「……確かに、私には悩みがあります。いえ、これは悩みというには少々語弊があるかもしれません。私にとってそれは、既に終わったことですから」
「終わったこと?」
「ええ、とある出来事が起こって、私はその結果、今ここにいるのです。既に結果は出てしまっているのに、私はその出来事のことを引きずってしまっている。そういった所でしょうか」
「……そうなのですね。良かったら、話していただけませんか? 人に話すことによって、少しは楽になるかもしれませんよ?」
あまりよくわからないが、彼女は何かを抱えているようである。
それなら、それを話して欲しいと思った。そういうものは、誰かに話すと案外楽になるものだ。少なくとも、一人で抱えているよりは、その方が絶対にましである。
「少し長くなりますが、構いませんか?」
「ええ、構いませんよ」
私の提案に、彼女は答えてくれた。
こうして、私は彼女から話を聞くことになったのである。
当主がクラール・ウォングレイに移り変わったことで頭角を現したことから、初めは彼という人間がとても優秀であると思われていた。
しかし、その当の本人は、ウォングレイ家の大成は妻のおかげであると発言したことから、人々の注目はウォングレイ夫人へと移り変わっていった。
だが、ウォングレイ夫人のアルシーナという女性は、謎の人物であった。
彼女の経歴は不明である。どこで生まれたのか、どのような人生を歩んできたのか、それを知る者は誰もいなかった。
そんな時、タルギス王国を、いや、タルギス王国だけではなく全世界を震撼させる出来事があった。
件のアルシーナ・ウォングレイが、自らを行方不明になっていたウェンシィ王国の公爵令嬢、ファルテリナ・ロガルサだと宣言したのである。
彼女が何故、名前を変えて他国で商人一家の妻となったのか。何故、今頃になって名乗ったのか。人々の注目は、一人の数奇な運命を背負った女性に向けられるのだった。
◇◇◇
とある商談の帰り道、私はエルガム岬という場所に来ていた。
商談の相手から聞いたのだが、その岬から見える景色が大変綺麗であるらしいのだ。
個人的にも興味はあったが、次に会った時の話の種になることから、私はその岬に寄ってから帰路につくことにしたのである。
「おや……」
そんな訳でやって来たのだが、エルガム岬には先客がいた。
もちろん、人がいることは別におかしいことではない。ここは一応それなりに有名な場所であるらしいので、誰かが見に来てもおかしくはないだろう。
ただ、その女性の雰囲気が少し儚げというか、哀愁が漂っているように見えたため、私は少し心配になっていた。
これも商談の相手から聞いたのだが、この岬では時々嫌なことも起こるらしい。綺麗な場所であることから、身投げする者がいるそうなのだ。
私の目の前にいる先客は、正に今身投げしようとしているように見えた。次の瞬間にでも飛び出してしまいそうなそんな風に見えてしまったのである。
「……早まってはいけません!」
「え?」
そんな訳で急いで駆け寄って、彼女を制止することにしたのだが、私の呼びかけに女性は目を丸くした。
その表情を見て、私は自分が勘違いしてしまったことを悟った。恐らく、この女性は身投げしようとしていた訳ではないだろう。
「……もしかして、私がここから身投げしようとしているとでも思ったのでしょうか?」
「え、ええ、恥ずかしながら……」
「なるほど、急に血相を変えて呼びかけてこられたので、少し驚いてしまいましたが、そういうことなら納得することはできます。まあ、こんな所で女性が一人で見惚れていたら、確かにそう思うのかもしれませんね?」
「いえ、自分の早とちりでした……」
私の勘違いに、女性は笑っていた。なんというか、とても恥ずかしい。
しかし、彼女は本当に飛び込みそうに見えた。あれは一体、どうしてだったのだろうか。
あの儚い顔は、何もない女性ができるような表情ではない。偏見かもしれないが、私はそのように思っていた。
「ですが、あなたは何か悩んでいるのではありませんか?」
「あら? どうしてそう思うのでしょうか?」
「あなたの表情が、そのように思えたのです」
気になったので、私は彼女に聞いてみることにした。
別に聞くだけなら、ただである。それで彼女が悩みを抱えていなかったら、もしくは抱えていても話したくないなら否定されるだけなので、とりあえず聞くだけ聞いてみればいいと思ったのだ。
「……確かに、私には悩みがあります。いえ、これは悩みというには少々語弊があるかもしれません。私にとってそれは、既に終わったことですから」
「終わったこと?」
「ええ、とある出来事が起こって、私はその結果、今ここにいるのです。既に結果は出てしまっているのに、私はその出来事のことを引きずってしまっている。そういった所でしょうか」
「……そうなのですね。良かったら、話していただけませんか? 人に話すことによって、少しは楽になるかもしれませんよ?」
あまりよくわからないが、彼女は何かを抱えているようである。
それなら、それを話して欲しいと思った。そういうものは、誰かに話すと案外楽になるものだ。少なくとも、一人で抱えているよりは、その方が絶対にましである。
「少し長くなりますが、構いませんか?」
「ええ、構いませんよ」
私の提案に、彼女は答えてくれた。
こうして、私は彼女から話を聞くことになったのである。
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