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第三章:見えない送り主
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「ごめんなさい。次はお客さんとしてお店
に来てくれるって卜部さんが言ってくれたの
が嬉しくて、ちょっとはしゃいじゃいました。
頭、痛くないですか?」
思いがけないその言葉に、僕は彼女を見つ
める。嬉しい、というのは純粋に店員として
嬉しいという意味だろうか?
――それとも。
僕は彼女の何げないひと言に微かな希望を
抱きつつ、心の内を探った。
「頭は全然平気。だけど、はしゃいじゃう
ほど嬉しいっていうのはどういう意味なのか、
かなり気になってる」
彼女の瞳の奥をじっと覗く。
どんな答えが欲しくて僕がそう訊ねたか、
彼女は気付いているだろうか?
緊張で渇き始めた喉を潤すために、僕は唾
を呑んだ。
ふ、と彼女が頬を緩める。
そして小首を傾げながら、髪を掻き上げた。
「さあ、どういう意味なんでしょう?わた
しにも、よくわからないです。でも、卜部さ
んといると何だか自分が『普通の人』みたい
に思えて、心が軽くなるんです。ずっと海の
底に沈めておいたものが浮き上がってくるよ
うな、そんな感覚っていっても伝わらないか
も知れないけど。卜部さんは、苦しんでいる
わたしを放っておけなくて、助けてくれてる。
そうわかっていても、やっぱり会えると嬉し
いです。卜部さんの傍にいるだけで、わたし
は一人の女性として生きていいんだって気持
ちになれるから」
望んでいた答えとは、少し違っていた。
けれどこれが、彼女のありのままの気持ち
なのだろう。僕が傍にいることで、海の底に
沈んでいた彼女の心を救えるなら、これほど
嬉しいことはない。
僕はひび割れた手で、そっとカエルを握り
締めた。
「藤治さんはどこにでもいる『普通の女性』
だよ。だから理不尽な嫌がらせに苦しんでる
なら、助けなきゃと思う。僕は、さっきみた
いに笑っていて欲しいと思ってるし、藤治さ
んの笑顔を守る為なら、水の中くらいには飛
び込めると思ってるから。あっ、でも、今度
飛び込むときはもう少し綺麗な川にして欲し
いけど」
喋っているうちに照れ臭くなってそう付け
加えると、彼女は思い出したように、ふふっ、
と笑ってくれた。
その笑みが僕の心の奥に灯りを灯す。
ゆらゆらと揺れる小さな炎。やがてそれは
僕の心を燃やし尽くすほど、大きく広がるの
だろうか?
彼女の笑みに目を細めながらそんなことを
思っていた僕は、ふと今日ここに来た理由を
思い出した。
「そう言えば、大事なことを伝えに来たん
だった。この間マサに手紙のことを話したん
だけど、彼が被害者遺族に話を訊きにいって
くれることになったんだ」
散らばった本の中に埋もれたままで言うと、
彼女は驚いたように目を見開いた。
に来てくれるって卜部さんが言ってくれたの
が嬉しくて、ちょっとはしゃいじゃいました。
頭、痛くないですか?」
思いがけないその言葉に、僕は彼女を見つ
める。嬉しい、というのは純粋に店員として
嬉しいという意味だろうか?
――それとも。
僕は彼女の何げないひと言に微かな希望を
抱きつつ、心の内を探った。
「頭は全然平気。だけど、はしゃいじゃう
ほど嬉しいっていうのはどういう意味なのか、
かなり気になってる」
彼女の瞳の奥をじっと覗く。
どんな答えが欲しくて僕がそう訊ねたか、
彼女は気付いているだろうか?
緊張で渇き始めた喉を潤すために、僕は唾
を呑んだ。
ふ、と彼女が頬を緩める。
そして小首を傾げながら、髪を掻き上げた。
「さあ、どういう意味なんでしょう?わた
しにも、よくわからないです。でも、卜部さ
んといると何だか自分が『普通の人』みたい
に思えて、心が軽くなるんです。ずっと海の
底に沈めておいたものが浮き上がってくるよ
うな、そんな感覚っていっても伝わらないか
も知れないけど。卜部さんは、苦しんでいる
わたしを放っておけなくて、助けてくれてる。
そうわかっていても、やっぱり会えると嬉し
いです。卜部さんの傍にいるだけで、わたし
は一人の女性として生きていいんだって気持
ちになれるから」
望んでいた答えとは、少し違っていた。
けれどこれが、彼女のありのままの気持ち
なのだろう。僕が傍にいることで、海の底に
沈んでいた彼女の心を救えるなら、これほど
嬉しいことはない。
僕はひび割れた手で、そっとカエルを握り
締めた。
「藤治さんはどこにでもいる『普通の女性』
だよ。だから理不尽な嫌がらせに苦しんでる
なら、助けなきゃと思う。僕は、さっきみた
いに笑っていて欲しいと思ってるし、藤治さ
んの笑顔を守る為なら、水の中くらいには飛
び込めると思ってるから。あっ、でも、今度
飛び込むときはもう少し綺麗な川にして欲し
いけど」
喋っているうちに照れ臭くなってそう付け
加えると、彼女は思い出したように、ふふっ、
と笑ってくれた。
その笑みが僕の心の奥に灯りを灯す。
ゆらゆらと揺れる小さな炎。やがてそれは
僕の心を燃やし尽くすほど、大きく広がるの
だろうか?
彼女の笑みに目を細めながらそんなことを
思っていた僕は、ふと今日ここに来た理由を
思い出した。
「そう言えば、大事なことを伝えに来たん
だった。この間マサに手紙のことを話したん
だけど、彼が被害者遺族に話を訊きにいって
くれることになったんだ」
散らばった本の中に埋もれたままで言うと、
彼女は驚いたように目を見開いた。
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