罪の在り処

橘 弥久莉

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第三章:見えない送り主

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 「ホントですか?刑事さんが忙しい時間を
割いてまで?」

 「うん。どうやらそっち方面に捜査に行く
ことがあるらしい。僕も同行させてもらうこ
とになってるから、いつになるかはわからな
いけど、話だけでも遺族から聞けると思う。
だからあの手紙、このまま借りてていいかな。
送り主の特定に繋がるかわからないけど……
とにかく、いまはこれだけが手掛かりだから」

 そう言うと彼女は口を引き結び、頷いた。
 そうして長いスカートを叩き、立ち上がる。
 ここに来てどれほど時間が過ぎただろう?
 ボーン、と柱時計が鳴る音に目を向ければ、
時計の針は二十時半を示していた。

 「そろそろ片付けなきゃ。お爺ちゃんも奥
で待ってるだろうし」

 彼女が僕に手を差し伸べる。

 「ありがとう」と言いながら彼女の細い手
を握った僕は、突如悪戯を思いつき、その手
を強く引いた。

 「ひやっ!!」

 僕に引っ張られ、バランスを崩した彼女が
腕の中に転がり込んでくる。抱き留めた時に
散らばった髪が、ぴしゃ、と僕の頬を叩いた。

 「もうっ!何するんですかっ」

 腕の中でそう喚いた彼女に、僕は、あはは、
と声を上げて笑う。そして、ぎゅっ、と抱き
締める腕に力を込めると彼女の耳元で言った。

 「これでお相子だ」

 「お相子?」

 「そう。藤治さんは揶揄うつもりで僕に触
れたんだろうけど、僕は心臓が飛び出しそう
だったし、頭に落ちてきた本もちょっと痛か
った。だから、これでお相子」

 そう言って悪戯っ子のような目を向けると、
振り返った彼女が拗ねたように口を尖らせる。

 「全然平気って言ったじゃないですか」

 「言ったけど。でも何だか悔しい気もする
から、お返し」

 頷きながら口をへの字にして見せると、
彼女はまたぱっと花が綻ぶような笑みを見せ
てくれる。その笑みに魅き込まれてしまった
僕は、彼女の髪にそっと頬を寄せた。

 「……ねぇ、藤治さん」

 おそらく、僕の声がいつもと違うことに気
付いたのだろう。腕の中の肩が小さく震える。
 けれど僕はその反応に臆することなく、
穏やかに言葉を続けた。

 「さっき、僕に会えると嬉しいって言って
くれたけどさ。僕も同じ気持ちだって、いま
気付いた」

 その言葉に、彼女の瞳が揺れる。
 ほんのりと赤く染まったように見える頬に
目を細めると、僕はいま見つけたばかりの
想いを口にした。

 「この気持ちにどんな意味があるか、まだ
言葉には出来ないんだけど、支援者としての
役目が終わっても、お客としてじゃなくても、
僕は藤治さんに会いたいと思ってる。だから、
いいかな?」

 「いいかなって?」

 そこで言葉を途切り、じっと見つめる僕に
彼女が問い掛ける。僕は一度視線を彼女から
外すと、息を吐き、もう一度彼女を見つめた。

 「会いたい時に、会いに来ていいかな?
SBUの卜部吾都うらべあさとじゃなく、一人の男として」

 口にしてみて、僕はようやく自覚する。


――この想いは恋なのだと。


 もしかしたら、彼女の笑顔を見たいと思っ
た時から、心は掴まれていたのかも知れない。
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